あまりにも想像力と配慮に欠けた発言だ。就任以来、失言を重ねては反省の弁を述べてきたが、改善されていない。市長としての資質に疑問を抱かざるを得ない。
上越市の中川幹太市長が、公務の場で兵庫県三田(さんだ)市が酒米の産地であることに触れ、「食べるコメはまずい。でも酒米は本当にいい」と述べた。別の場所でも同様の発言をした。
三田市の田村克也市長から「三田米の価値を不当におとしめる」と抗議状が届き、公式の場での謝罪などを求められた。
生産者や産地を傷つける発言で、看過できるものではない。
中川氏は9日に会見して謝罪し、発言を撤回した。その際、上越のコメがおいしいことを伝えたかったと釈明したが、他の産地をおとしめる必要などない。
2021年の就任以来、舌禍を繰り返している。
22年4月に「直江津に商店街はない」と発言した。24年6月には「工場では高校卒業程度のレベルの人が働いている。企業誘致で頭のいい人だけが来るわけではない」と発言し、問題となった。
高卒者を巡る発言を理由に、市議会で辞職勧告決議が可決されたが、中川氏は決議には従わずに続投していた。
その後、コミュニケーションの専門家から複数回指導を受け、「思いやりや配慮が欠けていた」と自己分析していた。それが生かされなかったことは、残念だ。
10日に会見した田村市長は地元の生産者から「信用が落ちた」「許せない」との声が上がっているとした。「今後の風評被害を考えると強い憤りを感じる」と述べ、三田米の不当な評価の回復を求めた。
三田市産の酒米は本県に流通しており、上越市内の酒造会社も大吟醸などに使用している。田村氏はこうした関係は崩さずに取り組みたいと述べた。
発言を撤回したとしても、簡単になかったことにはできない。上越市民にとっても不利益だ。
自身が引き起こした事態の責任を中川氏はどう取るのか。まずは三田米の評価の回復へ努力し、三田市の関係者や上越市民と誠心誠意向き合わなければならない。
配慮に欠ける政治家の発言は参院選でも相次ぐ。
自民党の鶴保庸介参院予算委員長の「運のいいことに能登で地震があった」との発言は能登半島地震の被災者の心情を踏みにじる許し難いものだ。
政治家は、自らの言葉が誰かを傷つけたり、不当におとしめたりする可能性はないか、慎重に考えなければならない。