今から35年前のこと。本紙は「罪なうわさ」を見出しに1本の記事を掲載した。三条市などの小中学校を中心に県央地域で地震発生の流言が広まり、気象台や報道機関に問い合わせが相次いでいる-。そんな内容だ。うわさは日付も特定していたが、地震は起きなかった

▼流布の“震源”は、ある研究者の学説だったようで、尾ひれが付いて広まった。研究者は「信越県境に地震空白域があり、マグニチュード7程度の地震発生の可能性が高まっている。県央部も要警戒」と学会で発表していた

▼当時の記事を探したのは、ひとしきり「7月5日の大災難」が話題になったから。東日本大震災と符合する「2011年3月の大災害」を事前に指摘した漫画家が、25年7月に巨大津波が襲う夢を見たと著書に記していた

▼SNSなどで海外にも拡散し、訪日旅行の解約が続出した。かくして「その日」から1週間が過ぎた。大災難は起きていない。当然だと鼻で笑いつつ、ほっとした人もいただろうか

▼漫画家は元々日付を特定しておらず、今もSNS上には7月中の災禍を信じる声がある。大津波を起こす震源地はフィリピン海と予言されるが、鹿児島県トカラ列島周辺の群発地震が気持ち悪さを残す

▼何を信じて生きるかは時に哲学的で、正解なんてなさそうだ。論拠や合理性を問い、自分の頭で判断するほかない。インターネットの普及による情報過多が、見極めを難しくもしている。踊らされ、やぶから蛇を招いてしまってはあほらしい。

朗読日報抄とは?