机の整理をしていたらかわいらしい文字の手紙が出てきた。「いつもお仕事がんばってくれてありがとう」。10年以上前に子どもからもらったものだ

▼現在、成人した子どもたちからの連絡はお金の無心がほとんど。もちろん手紙ではなく、通信アプリLINE(ライン)で「仕送り前借りしたい」などと送られてくる。電話はつながらず「いまバ先」とのメッセージ。いまバイト先で電話に出られないという意味だが、何でも略されて悲しくなる

▼こんな現状を見たら「日本郵便の父」と呼ばれる前島密はどう思うだろう。上越市の生家跡にある前島記念館の利根川文男館長は意外にも「前島は常に新しいものを追い求めていた。喜んでラインや略語を使っていたはず」と推測する

▼前島は郵便だけでなく、卓越した先見性で鉄道や電話、金融など多くの事業に関わった。国民全体に教育を普及させようと、難しい漢字ではなく平仮名を推奨した。将来を見据え変化が必要と感じたからだ

▼しかし、いくら彼でも、現在の郵便事業に注がれる厳しいまなざしは想定外でなかったか。酒気帯び確認の点呼を適切にしていなかったとして、国土交通省が日本郵便の貨物運送事業の許可を取り消した

▼郵便物は2001年度の約262億通をピークに年々減少し、24年度はほぼ半数になった。SNSの普及が主な要因だ。今年は前島の生誕190年に当たる。ラインもいいけれど手紙はやはり心が伝わる。家を離れた子どもたちにしたためてみよう。

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