デジタル技術を用いて地方の活性化を着実に進めることができるのであれば歓迎したい。
だが、通信システムをはじめとした基盤が整わなくては足元がおぼつかない。課題を踏まえて整備を急ぐべきだ。
政府は「デジタル田園都市国家構想」の基本方針骨子案を示した。岸田文雄首相が成長戦略の最も重要な柱として位置づけているもので、地方の利便性を高め、都市との格差を是正することを目的としている。
公表された骨子案は、デジタル活用の土台となる第5世代(5G)移動通信システム網について、人口カバー率を2023年度末時点で95%にするとした。首相は30年度末に99%まで引き上げる目標も示している。
5Gの人口カバー率は20年度末で30%台にとどまっている。基盤が備わったとは言えず、地方にはまだ恩恵が届いていない。
より深刻なのは、必要な人材が足りていないことだ。
データ分析をできるような人材が不足しており、既存の100万人から、26年度までに新たに230万人を地方で育成する必要があるという。
本県の人口を上回る人数に相当する。果たして確保できるのか。政府は育成に向けた道筋を明らかにしなければならない。
デジタル化では遠隔の医療や教育が可能になると言われるが、そこに目新しさはない。
政府は他にも、デジタルを生かして地方の歴史や文化、食といった無形資産の価値を高める方針を示している。
しかしこれも、どんな技術を使うことで、どう価値を高めていけるのかといった具体性を欠き、中身が見えてこない。
過疎化や高齢化などに直面する地方と都市との格差がいかに解消され、東京への一極集中が本当に緩和されるのか。もっと分かりやすく説明してもらいたい。
一方、地方はそれぞれデジタルの利用に活路を見いだそうと取り組みを進めている。
佐渡市は観光客らの利便性を高めるために、スマートフォンを使って複数の交通手段を効率よく利用できるサービスを検討する。
長岡市は市民サービスを向上させたり、行政の効率化を図ったりするためにデジタル・トランスフォーメーション(DX)を担当する部長を配置した。
こうした地方側の意欲を後押ししていくには、モノと人を整える必要がある。
全国知事会などは、人材の地方への移住を促すような取り組みを政府に期待する。
デジタル分野に精通した人材は東京など大都市に集中し、その偏りも課題になっている。
国は、地方への人の流れを築くための方策も示すべきだ。
