大事な相棒の誕生日を失念していたようなものだ。国語辞書「広辞苑」が刊行されたのは1955年5月25日、先ごろめでたく古希を迎えたことに気付いた

▼仕事柄「この言葉の意味は何だっけ」と一日に何度も首をかしげる。そんな時、3188ページの厚い本がそばにないと心細くなる

▼ライターの永江朗さんの持論は、辞書は「引く」ものではなく「読む」もの、である。辞書を引く時、言葉の意味は分からなくても言葉の存在は知っている。だが、読んでいると、存在すら知らなかった言葉に出合うことがある(「広辞苑の中の掘り出し日本語」)

▼「じゅんのび」はその一つだ。辞書には「(新潟県で)ゆっくり休んでくつろぐさま。じょんのび」と書かれている。本県限定の言葉が載っているとは、県民の一人として誇らしい。永江さんは「『じゅん』という音の響きがいい。いかにも縁側で寝そべっていそうな感じ。全身の力が抜けて伸びきっている」と絶賛している

▼永江さんは「のんき」が生活信条だそうで、ほかに「のさ」「へへやか」も挙げている。それぞれ「のんびりしているさま」「のんびりと時日をすごすさま」という意味だ

▼のんびりはいいけれどもその間も時は過ぎ去っていく。近頃は広辞苑を開く時、老眼鏡とルーペが欠かせない。一方、辞書はほぼ10年ごとに改訂される。7年前には約1万項目を追加し、約25万項目となった。老いても若々しい相棒を、うらやましく思うのではなく、見習いたいものである。

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