憲法は戦後日本の平和と民主主義の礎だ。そこで保障された各種の権利は私たちの命と暮らしを守っている。
しかしこの参院選期間中、憲法について十分に議論が行われてきたとは言い難い。戦後80年の歩みの土台を見つめる機会にしたい。
憲法には性別などによって差別されない権利や、教育を受ける権利が規定されている。生活保護は「健康で文化的な最低限度の生活を営む権利」を定めた25条を具体化する制度だ。
国民の代表を決めるために票を投じることができる普通選挙権も憲法で保障されている。
選挙に合わせ、憲法が持つ意義についても考えてみたい。
憲法を巡っては、1946年の公布以降、改憲勢力と護憲勢力による駆け引きが続いている。その結果、47年の施行から78年間、一度も改定されずにきた。
各党の公約をみると、改憲を党是とする自民党は9条への自衛隊の明記や、国政選挙が困難な緊急事態での国会議員の任期延長などの改憲原案の国会発議を目指す。
自民と連立を組む公明党は自衛隊明記には消極的で、議員任期延長も両論併記にとどめた。
日本維新の会は自衛隊の明記と緊急事態条項の創設、教育無償化の明文化を掲げた。
国民民主党は緊急時の任期延長に賛同し、9条については賛否を示さなかった。
立憲民主党は自民党の改正案を批判し、護憲や改憲ではなく、議論を進めるとした。
共産党とれいわ新選組、社民党は改憲阻止を訴えている。
参政党は国民自ら憲法をつくる「創憲」を提唱する。
今回の選挙では、改正に前向きな改憲勢力が3分の2を占めるかも注目点だ。
現行憲法は改正を発議できる要件を、衆参両院でそれぞれ3分の2以上の賛成が必要と定めているからだ。衆院では改憲勢力が3分の2に届いていない。
参院の3分の2ラインは166で、今回、選挙で改憲勢力が69議席に届かなければ、衆参両院とも改憲の発議が極めて困難になる。
憲法に対する国民の関心が高まっていないことも気がかりだ。
共同通信が公示後に実施した電話世論調査で、この参院選で最も重視する政策として「憲法改正」を選んだのは全体の1・9%にとどまった。
世界に目を転じれば、ウクライナやパレスチナ自治区ガザなど各地で戦火が上がり、多くの市民が犠牲になる事態が続いている。
世界情勢が大きく揺れ動く今こそ、憲法が掲げる平和主義の価値を再認識する必要がある。熟慮し、一票を投じたい。