またも冤罪(えんざい)である。人生からあまりに長い年月を奪った責任は極めて重い。

 捜査の徹底検証と同時に、審理が長期に及ぶ再審制度の見直しを急がねばならない。

 1986年に福井市で中学3年の女子生徒が殺害された事件の裁判をやり直す再審公判で、名古屋高裁金沢支部は18日、殺人罪に問われ懲役7年が確定して服役した前川彰司さんに無罪とする判決を言い渡した。

 この事件は指紋など直接的な証拠はなく、前川さんは逮捕時から一貫して無実を訴えたが、確定判決は「事件後、服に血が付いているのを見た」という知人供述を有罪の根拠とした。再審公判でも供述の信用性が争点だった。

 判決は「捜査に行き詰まっていた警察が知人らに誘導などの不当な働きかけをした」として信用性を否定した。

 不当捜査は厳しく非難されなければならない。判決が検察の対応を「不誠実」としたことも重い。

 なぜ再審無罪が相次ぐのか。昨年9月には袴田巌さんが死刑事件としては戦後5例目となる再審無罪判決を受けた。

 今月17日には2020年に再審無罪が確定した元看護助手が賠償を求めた訴訟で、滋賀県に3100万円の支払いが命じられた。

 いずれも証拠捏造(ねつぞう)や不当捜査が指弾された。二度と冤罪が生み出されることがないよう、捜査の検証が欠かせない。

 福井の事件では、再審を巡るいくつもの課題が浮かび上がった。

 一つは証拠開示の壁だ。刑事訴訟法に再審請求時の証拠開示に関するルールはない。

 検察は証拠開示に抵抗し、ようやく開示に応じたのは、裁判所の強い勧めを受けてだった。

 今回は開示された証拠が再審開始の決め手の一つになった。裏返せば、証拠隠しは冤罪を生む温床になってしまうということだ。

 審理が裁判官の裁量で左右されることがないよう、全ての証拠の開示を義務化するなど、ルール整備が求められる。

 審理の長期化も問題である。前川さんが再審の請求をしてから、「知人供述の信用性には疑問がある」として再審開始が認められるまでに7年を要した。

 しかしこれも検察が異議を申し立てたため覆り、結局、最初の請求から今年3月の再審初公判を迎えるまで20年余りかかった。

 時間がかかり過ぎである。21歳のときに逮捕され、60歳で無罪を勝ち取るまでに39年がたった。これでは再審制度が無実の人を救済する砦(とりで)とは言えない。

 法相の諮問機関である法制審議会部会は今春、制度見直しの議論を始めたばかりだ。

 冤罪被害者の真の救済につながるよう、見直し議論を加速させてもらいたい。