佐渡市の正法寺(しょうぼうじ)の寺宝である鬼神の面は佐渡に配流された能の大成者、世阿弥が雨乞いの儀式の際に着けたと伝わる。鬼神と化した世阿弥が舞うと、干ばつに見舞われた島に大粒の雨が降ったという

▼新潟市西区出身の作家、藤沢周さんは佐渡を舞台にした「世阿弥最後の花」で雨乞いの様子を描いた。降らなければ斬ってしまえ-。周囲が恐ろしいはかりごとを巡らせる中、世阿弥は一心に舞う。やがて空の表情が変わる。白い布のようなものが降りてきたかと思うと、一粒、二粒…

▼こんな場面を待ち望む人も多いのでは。連日の日照りに、人も田畑もあえいでいる。先日の本紙には、渇水で無残にひび割れた天水田の写真が載っていた。吸い上げる水がないのだろう。稲の葉は針のように細く、育ちも悪そうだった

▼水不足が懸念されるのは雨水に頼る天水田だけではないはずだ。新潟米の顔ともいえるコシヒカリは間もなく、最も水を必要とする出穂期を迎える。作物の出来を左右する季節である。コメを巡る混乱が尾を引く中、収量や品質への影響が気がかりだ

▼刈羽村では特産の「砂丘桃」が打撃を受けている。上越市は市民に節水を呼びかけており、プール授業が中止になるなどした。あちこちから悲鳴が聞こえてくるようだ。今更ながら水は暮らしの礎だと実感させられる

▼雨を切望しながら、できることなら災害にならない程度の降り方で…と、虫のいいことを願う。世阿弥だったら、この思いを天に届けてくれるだろうか。

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