新潟市の豊栄図書館で先ごろ、童話や昔話のお話会が開かれた。物語をそらんじるほど練習した女性たちの声は子供だけでなく還暦間近の耳にも心地良かった
▼印象に残ったのは「おいしいおかゆ」というグリム童話だ。主人公の少女は母親と2人暮らし。食べ物がなくなって森へ出かけ、見知らぬおばあさんに鍋をもらった。鍋は、少女が「おなべや、ぐつぐつ」と言うと、おかゆをこしらえた。「おなべや、おしまい」と言うと、やめた。以来、親子はひもじい思いをすることがなくなった
▼ある日、母親が「ぐつぐつ」と言うと、鍋はおかゆをこしらえた。母親はおなかいっぱいになり、止めようと思ったが、何と言っていいか分からなかった。おかゆは台所にあふれ、道を埋めた。少女が戻って来て「おしまい」と言い、ようやく止まった
▼この物語は「どんなモノであれ『限度を超えてありすぎるのは不幸を招く』と教えている」という(おとなのグリム童話)。確かに食べ物に困らない暮らしはうらやましいが、おかゆに町をのみ込まれたら大変だ…
▼そこまで考えたところで、本紙の国際面に載った、パレスチナ自治区ガザの1歳半の子供の写真が頭に浮かんだ。飢餓で骨と皮だけになった小さな体には、座る力すら残されていないようだった
▼「明らかな人災」「21世紀にこんな事態が起きて良いはずがない」。支援に当たる日本人医師の言葉が重く響いた。グリムのおかゆのような十分な食べ物を、一刻も早く届けてほしい。