東宝の前身であるPCL映画製作所では黒澤明と同期だった。「きけ、わだつみの声」など戦争をテーマにいくつもの秀作を残した。国際的な評価が高かった映画監督の関川秀雄は、佐渡市で生まれ育った

▼作品の一つに「ひろしま」がある。原爆が落とされた直後の広島を、徹底したリアリズムで描いた。ラストシーンを忘れない。スクリーンの奥から何人もの被爆者が歩み寄る。無言の訴えに胸苦しさを覚えた

▼映画は戦後7年の広島市内の高校を舞台に、回想する形で構成された。教室で生徒が発言する。「原爆投下という非人道性を世界に知ってもらいたい。でもまず、日本人に、広島の人に、このクラスの人に知ってほしい」

▼終戦から10年もたたない1953年に製作された。既に継承をテーマにしていたことに驚く。そして、もはや驚いてもいられない。自衛隊が台湾有事を想定した日米共同演習で、中国への核による脅しを米軍に再三迫っていた。昨年のことである

▼核兵器禁止条約と距離を取る姿勢や核抑止論と根っこはつながっている。「核なき世界」の誓いが空疎に響く。安全保障を巡る各論に分け入れば、核共有や核武装にすら、もっともらしい理が見えてくるのだろう

▼議論さえ否定するのは思考停止だと乾いた声も聞こえるが、核の拒絶は国是であるはず。理を解さぬ分からず屋であっても何が悪いか。世界で唯一戦争被爆の惨禍にまみれた国として、終戦から80年となる今も、訴え続けねばならないことがある。

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