増産を求められても、容易に対応できるものではない。安心して農業を続けられる見通しを示すことが先である。信頼を失ったままの農政では、生産者の協力を得るのは難しいだろう。
石破茂首相が、コメの増産への転換を表明した。5日の安定供給に関する関係閣僚会議で「農業者が増産に前向きに取り組める支援に転換する」と述べた。
2027年度以降に増産へとかじを切る。推し進めるため、農地集約による生産性向上や輸出拡大を図るという。
これまでの事実上の減反(生産調整)に区切りをつける大きな転換である。生産意欲を後押しする方針は評価できる。
しかし課題は多い。例えば、いったん耕作放棄地になった土地を元に戻すのは簡単ではない。
本県の農業関係者が困惑するのも当然である。現場の高齢化を理由に「増産できる状況ではない」との声も上がる。
長く続いた生産抑制が離農に拍車をかけたことは否めない。
後継者確保のためには、手取りを増やす具体策が欠かせない。策として農地の大規模化が考えられるが、本県にあるような中山間地での集約には困難がある。
兼業農家を含め、農業の継続を望む小規模の生産者も多い。政府が集約化の実効性を上げられるかは不透明だ。
こうした大規模化の難しさから、日本のコメ生産コストは米国の8倍の高さといわれる。輸出を拡大するにはコストを抑え、価格競争力を高める必要がある。
増産によってコメが余り、価格が下がるのではないか、との生産者の懸念は根強い。
米価が下がった場合に、どのように生産者を支えるのかを政府が明確にするべきである。
石破首相は閣僚会議で、コメ価格高騰の要因として「生産量に不足があった」と認めた。
6月末までの1年間の需要実績と、昨年公表した当初の見通しとを比べ、実績が38万トン上回っていたとの試算を農林水産省は明らかにしている。
国は昨夏以降の価格高騰でも、生産量は足りていると説明していた。明らかな見誤りである。
需要については、インバウンド(訪日客)の増加や家庭での消費拡大といった要素をつかみきれていなかった。一方、生産量は高温障害で精米後の「歩留まり」が悪化していた。
こうした要因をなぜ需給見通しに反映できていなかったのか。増産を求めるのであれば、正確な見通しを算出するべきだ。
生産者は農政に長年振り回されてきた。いまも米国からのコメ輸入増といった不安にさらされる。
農政の大転換には、まず不安払拭が必要だ。生産農家の声を聞くことから始めるべきである。