長引く物価高騰が家計を直撃している。引き上げが、低賃金に苦しむ人たちの処遇を改善する一歩となることを期待したい。
一方、中小零細企業には人件費の高騰は深刻な問題だ。行政は有効な支援策を講じねばならない。
2025年度の本県の最低賃金改定で、新潟地方最低賃金審議会は、現在の時給985円を6・6%相当の65円引き上げ、1050円とするよう答申した。千円台に乗るのは初めてで、引き上げ額も過去最大となった。
厚生労働相の諮問機関である中央最低賃金審議会は、本県の引き上げの目安を63円としていたが、2円を上乗せした。
賃金は上昇傾向にあるが、物価の伸びに追いついていない。6月の1人当たりの実質賃金は、前年同月比1・3%減と、6カ月連続のマイナスとなった。
日本の最低賃金は、国際的にも低い水準とされる。労働者の生活を安定させるために、引き上げは当然の判断だ。
最低賃金について、政府は全国平均を「20年代に1500円」とする目標を掲げる。達成には、25~29年度改定で毎回7・3%のアップが必要な計算だった。
今回の改定では、本県、全国平均とも7・3%を下回ったが、石破茂首相は「さらに努力する」とし、目標達成の旗を掲げ続ける。
懸念されるのは、引き上げが、県内企業の9割以上を占める中小・小規模事業者にダメージを与えかねないことだ。
日本商工会議所が1~2月に実施した中小企業調査では、政府目標通りに引き上げられた場合、対応が「不可能」との回答は19・7%あり、地方の小規模事業者に限ると25・1%にも及んだ。
1050円となる本県の最低賃金に対し、県内の経営者からは「企業の多くが利益を削りながら賃上げをせざるを得ない」という声も上がる。厳しい状況だ。
大幅な引き上げが続けば、中小企業は価格転嫁ができず、正社員を含めた企業全体の賃上げが難しくなるとの専門家の分析もある。
国には、企業の生産性の向上や再編を支援し、賃上げができる体質への転換を後押しするなど、対策を打ち出してほしい。
本県の審議では労働者側が、引き上げの理由に「地域間の最低賃金の金額差の改善」も挙げた。
現在最高額の東京都は1163円で、中央最低賃金審議会の答申通りに引き上げれば1226円となる。改定後の本県との差は176円と、開きは依然大きい。
格差は、働き手を都市部へ流出させる要因になっているとも指摘され、解消が急がれる。
政府は、目安を超えて引き上げた地域に財政支援をすると予告している。県は支援も活用し、格差縮小と地域経済強化の有効な手だてを示してもらいたい。