そもそも物忘れが進んでいるからなのか、それとも記憶の引き出しが開かないからか。テレビドラマを見ていると「この俳優は誰だっけ」、ラジオを聴いていると「この曲が主題歌だったドラマは何?」となることが多い

▼思い出すことは早々に諦め、スマホを手にしてしまう。ドラマのタイトルや曲名を検索して正解を知る。検索エンジンのグーグルで調べる「ググる」が、新語・流行語大賞にノミネートされたのは2006年。ググるはすっかり定着した

▼先日の小欄で広辞苑が刊行70年を迎えたことを伝えた。第7版には約25万項目が収録される。知識の泉のような辞典には漢和や英和、和英、古語などさまざまある。学生時代に哲学事典を買ったときは、それだけで知識を得た気になったものだ

▼辞書や辞典は物事を調べるために欠かせない。とはいえ、調べる手段は次々変化する。昭和生まれは新しい技術だと思っていた電子辞書は需要が激減し、カシオ計算機は今年新モデルの開発を中止すると発表した

▼ググる環境にも変化が出ているという。急速に普及する生成AIの影響だ。質問すると瞬時に答えを出す生成AIに調べる手段が置き換わってきた。「AIる」とでもいうのか

▼近い将来のAIは質問に答えるだけでなく、人の感情や行動を分析して提案するという予測がある。仕事上がりに立ち寄る赤ちょうちんをググる前に「血圧が高めだから飲酒は控えた方がいい」と提案されるのかも。そんな未来がいいのか悪いのか。

朗読日報抄とは?