対策の必要性を各国が理解しながら、またも合意できなかったことに失望を禁じ得ない。国際社会は危機感を強くし、合意に向けた協議を続けなくてはならない。

 プラスチックによる環境汚染の防止に向けた国際条約作りを協議していた政府間交渉委員会は、スイスで行われていた今回交渉での条文案合意を断念した。

 2024年内の合意を目指した韓国での前回交渉に続く失敗だ。

 各国は22年の国連環境総会で、24年末までに法的拘束力のある国際条約を作ると決議したが、実現できていなかった。今回もプラスチックの生産段階からの規制などを巡り、溝が埋まらなかった。

 欧州連合(EU)や、漂着ごみに悩む島しょ国が、生産量と消費量の国際的な削減目標の設定など強い規制を求めた一方、産油国や米国は生産規制は自国経済に悪影響があるとして反対し、廃棄物対策の強化を求めた。

 条文案の合意は全会一致が原則で、納得できる妥協点を見いだす困難さが浮き彫りになったといえる。日本は中立的な立場を取り、調整役として奔走したという。

 自国利益を優先するトランプ米政権になり、米国が反対陣営に加わったことも、多国間の協調を揺るがす要因にはなっただろう。

 議長が終盤に示した条文案は生産規制の規定が削除され、規制を求める途上国などが反対した。

 その後、会期を延長して示された修正案では、前文で「プラスチックの生産と消費は廃棄物の管理能力を超え、地球規模の対応が求められている」と必要性を強調したが、受け入れられなかった。

 交渉委は再び会議を開く方針だが、時期や開催場所は未定で、今回の議論をどう反映するかも決まっていない。運営や交渉の進め方についても吟味し、合意に至るまで努力を続けてもらいたい。

 こうしている間にも、プラスチックの生産に歯止めがかからず、廃棄が増えることは心配だ。

 中国・清華大の研究では、1950年に200万トンだった生産量は、2022年に4億トンとなり、50年には8億トンに達するという。

 海洋流出も続き、50年には魚の総重量を超えると試算される。

 環境への負荷に加え、健康被害にも懸念が広がっている。

 プラスチックが細かく砕けることで生じる微粒子「マイクロプラスチック」はその一つだ。

 米大学などの分析では、米国内で売られたサケやエビなど6種の生物の可食部で、ほとんどの試料から微粒子が検出されたという。

 プラスチックに機能を持たせるため、生産過程で加えられる多くの化学物質の中には、人や生態系にとって有害な物質もある。

 便利さと引き換えに、危機的な状況を招いたのは人間だと肝に銘じたい。各国は自国の立場を超え危機の打開に協力するべきだ。