海外に住んでいるというだけで、正当な国民の権利を行使させなかった国の責任は非常に重い。必ず投票できるよう早急に制度を改めなければならない。

 最高裁裁判官の国民審査について、海外在住の日本人有権者が投票できないことへの違憲性が争われた訴訟の上告審判決で、最高裁大法廷は在外邦人の投票を認めていない現行の国民審査法は「違憲」であると初の判断を示した。

 裁判官15人全員が一致した。判決は公務員を選任・罷免する権利を保障した憲法15条や国民審査を規定した79条に違反するとした。

 その理由として、憲法は選挙権と同様に国民審査権を保障しているため、制限は原則許されないことを挙げた。

 遅くとも2017年の国民審査までには立法措置が不可欠だったのに怠ったとして、国会の不作為を認め、原告1人当たり5千円の賠償を命じた。

 与野党は法改正へ協力姿勢を示し、総務相も早急に検討することを表明したが、当然だ。

 総務省によると、昨年10月の衆院選で在外選挙人名簿に登録された人は約9万6千人に上る。

 これだけ多くの人が憲法で保障された権利をないがしろにされたことになる。政府や国会は深く反省しなくてはならない。

 最高裁の裁判官は裁判で最終的な結論を下し、その判断は私たちの暮らしにも影響を与える。

 例えば最高裁は昨年6月、夫婦別姓を認めない民法の規定を大法廷で「合憲」としたが、裁判官15人中4人は「違憲」とした。

 この判決について、今回の訴訟の原告の1人は「裁判官の構成によっては違憲になっていたかもしれない」と指摘する。同じ思いでいる人は他にもいるだろう。

 国民審査は、「憲法の番人」と位置づけられる最高裁裁判官がその職責にふさわしいか、有権者が直接意思表示できる唯一の機会で、極めて重要な権利だ。

 しかし、国はこれまで国民審査を議会制民主主義の下で不可欠な制度ではないとし、「投票用紙などの回収に時間がかかる」といった技術的な理由で在外投票を認めてこなかった。

 首をかしげたくなる発言だ。

 これに対し判決は「現行と違う方式を採用する余地がないとは断じがたい」と指摘した。

 通信技術は発達している。制度改正に向けては、最先端技術の利用も含めて考えるべきだ。

 日本以外で最高裁裁判官の国民審査を行っている国はほとんどない。三権分立の一つである司法権への民主主義の表れだとも言え、誇るべき制度だろう。

 同時に行われる衆院選に比べると、有権者にはあまり意識されていないとの声も根強い。

 判決を機に、私たち国民ももっと最高裁への関心を持ちたい。