膨大な人数である。多くは避難するために支えを必要とする人たちであることが気がかりだ。混乱を抑え、着実に避難できるよう議論と準備を急ぎたい。
内閣府は、南海トラフ地震臨時情報のうち最も警戒レベルが高い「巨大地震警戒」が出た際、津波に備え自治体が1週間の事前避難を求める住民が52万人超に及ぶとの調査結果を公表した。
東海沖から九州沖に延びる南海トラフ沿いで想定される巨大地震では、マグニチュード8以上の地震が起き、後発地震の可能性が高まったと評価されると巨大地震警戒が発表される。
津波到達が早く、避難が間に合わない恐れがあれば「事前避難対象地域」に指定するよう政府は自治体に要請している。
今回の調査は、著しい被害の恐れがある「防災対策推進地域」の700以上の市町村を対象に実施し、地域指定を終えていたのは130自治体にとどまった。
「検討中もしくは未検討」とした自治体が204に上る。
これでは全体像を把握することは困難だ。事前避難の対象はさらに膨らむのではないか。
問題の背景に自治体の人手不足がある。地域の指定が終わっていない理由として、半数の自治体が人手不足を挙げた。
人手は、避難時に自治体がどれだけ住民をサポートできるかにも関わってくる。
事前避難の半数以上を占めるのは、高齢者や障害がある人など要配慮者である。
巨大地震警戒が出た場合、津波による浸水想定区域外の避難所や知人・親戚宅などへあらかじめ避難することが求められる。
難しいのは、災害発生時の避難所とは異なる点だ。避難先の確保や食料の入手は原則として住民の判断で行わなければならない。
自治体による支援が不可欠だ。例えば、大分県佐伯市はバスやタクシー事業者と協定を結び、住民を事前避難先の山あいまで運ぶ。こうした取り組みに学びたい。
避難してもらった後の通院や買い物まで検討できていないとの声も自治体から聞かれる。
確かに、体力のある自治体ばかりではない。全てに公助を期待するのは難しい現実も受け止めなければならない。
危惧するのは、市町村を支援する立場となるはずの国側のマンパワー不足もささやかれる点だ。
自治体の対策が適切か検証するところまで手が回らない懸念がある。防災立国を目指す政府としては心もとない。
そもそも臨時情報が十分に理解されていないのが実情だ。政府は周知に努めてもらいたい。
本県は被害が想定される都府県には含まれず、支援する側となる。事前避難の段階からどう支えられるか、想像を巡らせたい。