国交正常化60年の節目に、前向きな合意が行われたことを歓迎する。隣国との良好な関係を維持するため、対話を重ねてほしい。

 韓国の李(イ)在(ジェ)明(ミョン)大統領が来日し、石破茂首相と会談した。李氏が大統領に就任後、初の来日で、首脳が相互に往来する「シャトル外交」の第1弾となる。

 1965年の国交正常化以降、韓国大統領が2国間外交でどこよりも先に日本を訪問するのは初めてだという。

 会談後の共同記者発表で、首相は「これまで築かれてきた基盤に基づき、日韓関係を安定的に大きく発展させていく」と述べた。李氏は「多様な分野で協力できる最適なパートナーだ」とした。

 両首脳は発言通り、関係の継続的な発展に取り組んでほしい。

 首脳会談では、地方創生や少子高齢化など共通課題について政府間協議の枠組みの創設を申し合わせた。人的交流拡大に向け、若者が外国で働きながら長期滞在できる「ワーキングホリデー」制度の参加回数の拡大でも合意した。

 合意内容を明記した共同プレスリリースも発表した。日韓関係全体にわたる首脳間の合意文書作成は2008年以来だという。

 文書で、歴史認識について、日本による植民地支配の反省とおわびを明記した1998年の日韓共同宣言を含め、歴代内閣の立場を全体として引き継ぐとしたことも重要な点だ。

 従軍慰安婦問題や、元徴用工訴訟問題などの歴史問題は長く日韓関係の懸案事項となってきた。

 李氏はかつて歴史問題で日本を厳しく追及し、日本への対応が不安視されたが、日韓関係改善に努めた尹(ユン)錫悦(ソンニョル)前大統領の路線を踏襲して対日重視の姿勢を見せたことは評価できる。

 首相も終戦から80年となった8月15日の全国戦没者追悼式の式辞で民主党政権以来となる「反省」「不戦」の文言を復活させ、韓国で肯定的に受け止められた。

 双方が歩み寄り、関係を前進させたといえよう。

 信頼構築に前向きな両首脳だが、懸念材料もある。

 李氏が対日姿勢を変化させたことに一部の支持層からは批判が出始めたという。国内世論とどう折り合いを付けるか気がかりだ。

 世界文化遺産「佐渡島(さど)の金山」で秋以降に全ての労働者の追悼式が予定されるが、昨年は式の内容に反発した韓国側が欠席している。両国の対応に注目したい。

 核・ミサイル開発を進める北朝鮮や、軍備増強を図る中国への対応など、日米韓の安全保障協力の重要性は高まっている。

 トランプ米大統領は半導体などにも高関税を課す構えだ。米国の保護主義的な動きはさらに強まりかねず、日韓への影響も大きい。

 多くの課題に両国は歩調を合わせて取り組まなければならない。