大臣という高い規範意識を求められる職責にありながら、自覚が欠如していた。司法がこう指摘し、業者との根深い癒着を断罪したのは当然だ。

 鶏卵生産大手「アキタフーズ」グループの元代表=贈賄罪などで有罪確定=から現金計500万円を受け取ったとして収賄罪に問われ、無罪を主張した元農相吉川貴盛被告に、東京地裁は有罪判決を言い渡した。

 全額を賄賂と認定した上で、「大臣として農林水産行政の公正さに悪影響を及ぼし、非常に悪質だ」と指弾した。

 養鶏業界をけん引する立場にあった元代表は、2018年11月~19年8月、家畜を快適な環境で飼育する「アニマルウェルフェア」の国際基準案の動向に危機感を抱き、反対を表明するよう何度も元農相に要望し、現金を渡した。

 弁護側は、現金が「政治活動の応援」との趣旨で、元農相に賄賂の認識はなかったと主張した。

 これに対し判決は、上着に多額の現金をねじ込まれて受け取った状況を考慮。「秘密裏に扱うべき性質の金銭と理解し、職務に関する期待や意図を含めて渡された可能性を認識していた」と断じた。

 元農相は現金を受け取って程なく、業界に詳しい議員と業者、農水省による3者協議を指示した。その後も元代表から「要望書です」などと言われて、大臣室で封筒に入った現金を受領していた。異常と言わねばならない。

 政治資金収支報告書に記載せず、元代表が裁判で贈賄を認めていることも踏まえれば、今回の有罪判決はうなずける。

 看過できないのは、元農相の筋の通らない弁明だ。

 法廷で現金について「政治活動を助けるという気持ちからだと思った」「いずれ返さないといけないと考えていた」としながらも、政治資金としての処理は一切せず、現金は全て使っていた。

 判決が「一般的な常識からかけ離れている弁解に終始している」と批判したことを、元農相は真摯(しんし)に受け止めるべきだ。国民の政治不信を招いた責任は極めて重い。

 今回の事件を巡り、立件はされなかったが、西川公也元農相が内閣官房参与の時に元代表から現金を受け取った疑いも露見した。

 当時の次官ら農水官僚も元代表から会食の接待を受けたとして、処分された。政官業の癒着の根深さを物語るものだ。

 安倍政権下では19年から吉川元農相を含め大臣・副大臣を務めた計5人が収賄罪などで起訴、有罪判決を受けた。本人や任命責任が問われた安倍晋三元首相から納得のいく説明はなく、「安倍1強」でのおごりや緩みが指摘された。

 岸田文雄首相は「政治とカネ」を巡る問題を過去のものとせず、公正で緊張感のある政権運営に努めなければならない。