能登半島を訪ねると、地元の女性が「シラサギが戻ってきました」と教えてくれた。稲刈りを終えた田にぽつぽつと白いサギの姿がある。地震と豪雨に見舞われて、鳥たちも羽を休める場をしばらく見失っていたろうか
▼半島の棚田へと案内してもらうと、目の前に日本海があった。小さな田が階段状に連なって波際まで延びていく。連なる田んぼの数は千枚にもなるという。潮風が害虫を防いでくれるのだと教わった
▼昨年元日に襲った能登半島地震であぜが割れ、棚田は水を保てなくなった。田植えができたのは昨年、千枚のうち120枚だった。今年は250枚に増えた。400年を超える千枚田の歴史は途切れることなく継がれていきそうだ
▼この地では里山だけでなく里海との言葉をよく聞く。津波をもたらした海も含めてふるさとなのだ。海と山の接点にある棚田がいかに輝くか。それが復興のバロメーターになりそうだ
▼昨年秋の豪雨があまりにも痛かった。多くの集落を孤立させるほどの濁流が各地での再生の取り組みを台無しにした。嫌というほど打ちのめされた被災地が力強く歩み出せば、災害大国日本の光になり得る-。その思いから石川県は創造的復興を掲げる
▼再生への資料をめくってハッとした。1ページ目にあったのは羽を広げたトキの写真。石川での来年度の放鳥に向けて「万全を期す」との文字も見える。復興の先導役として期待は大きい。豊かな海、実る千枚田、そこにトキ。見ほれる光景になるに違いない。