「解党的出直し」を掲げた自民党の新しい総裁がやっと決まった。参院選大敗後、石破茂首相の責任を巡り、国民不在の権力闘争を続け、約2カ月半もの政治空白を生じさせた。

 新総裁には、その責任をしっかり自覚した上で、政権運営に当たってもらいたい。政治への信頼を取り戻すため、全力を尽くさねばならない。

 自民党総裁選が4日、投開票され、高市早苗前経済安全保障担当相が決選投票で小泉進次郎農相を破り、女性として初めて総裁に選出された。

 党員・党友による地方票で圧倒し、本命視されていた小泉氏を退けた。

 15日召集を軸に調整が進む臨時国会で、首相に指名される公算が大きい。女性が首相に就任すれば、史上初めてとなる。

 高市氏は総裁選出後のあいさつで「自民党の新しい時代を刻んだ。多くの方の不安を希望に変える党にする」と、全ての世代の力を結集すると強調した。

 ◆物価高対策を早急に

 今回の総裁選には高市、小泉両氏のほか、林芳正官房長官、小林鷹之元経済安保相、茂木敏充前幹事長も立候補した。

 しかし、党内融和を優先するあまり、それぞれの主張の違いは見えにくかった。

 各候補の言動は旧態依然としたものだった。特に党勢衰退の発端となった派閥裏金事件への対応は一様に消極的だった。裏金議員の要職起用についても否定しなかった。

 高市氏には今後、目指す国家像を明確に語ってほしい。

 臨時国会で、高市氏は物価高対策を盛り込んだ2025年度補正予算案を提出する構えだ。ガソリン税の暫定税率を廃止するための関連法案も審議されるとみられる。

 自民、公明両党は衆参両院で少数与党となっており、高市氏は「連立の枠組みを拡大させる」と明言している。法案成立のため、野党に政策協議を呼びかけるとみられる。

 主要政党では、日本維新の会が協議に応じる姿勢を示しており、国民民主党は連立参加の可能性を否定していない。立憲民主党は、大連立は考えていないとしている。

 野党側は看板政策の受け入れを迫る方針だ。高市氏はどの野党を連携先とするか、明言を避けているが、短期間で連立を拡大するハードルは高そうだ。

 野党との協議を早急にまとめ、予算案を成立させることが、政権を安定させるための第一関門となるだろう。

 自民内では、新首相誕生で内閣支持率が高い「ご祝儀相場」のうちに、解散を求める声が高まる可能性もある。

 高市氏は、国政の課題が山積しているとして、早期の衆院解散には否定的だ。

 党利党略よりも物価高騰に苦しむ国民と誠実に向き合ってもらいたい。

 ◆国益踏まえた外交を

 外交・安全保障を巡っては、「米国第一」を掲げるトランプ米大統領の今月下旬の来日が見込まれている。

 トランプ氏は、日本が関税引き下げの代わりに約束した5500億ドル(約81兆円)の対米投資に強い関心を寄せている。

 防衛費の増加のほか、在日米軍駐留経費の日本側負担(思いやり予算)を増やすよう迫られる可能性もある。

 高市氏が首相に就けば、トランプ氏と信頼関係を築きつつ、経済や防衛政策で対等に渡り合う力量が試される。同盟国とはいえ、国益を損なうことがないよう求めたい。

 保守を自認する高市氏は靖国神社を頻繁に参拝してきたが、総裁選出後は「適時適切に判断する。外交問題にされてはならない」と慎重な姿勢を見せた。

 17日からは秋の例大祭があり、高市氏が参拝すれば、中国や韓国が保守的な姿勢に警戒を強めることも予想される。

 今後は、自らの政治信条と首相としての立場との間で、現実的な対応を取るバランス感覚が求められよう。

 月内には、マレーシアで東南アジア諸国連合(ASEAN)関連会議が開かれる。出席すれば、外交デビューとなる。

 韓国では、アジア太平洋経済協力会議(APEC)首脳会議もある。中国の習近平国家主席や韓国の李在明(イジェミョン)大統領の出席が予定される。

 首脳会談を通じて信頼関係を深め、東アジアの安定を図ってもらいたい。