戦後最大ともいわれる人権侵害だ。被害者に向き合い、それぞれの思いに耳を傾けることから始めなければならない。
その上で、負の歴史を直視し、徹底的な原因究明を行わなければ、被害者の望む共生社会の実現にはつながらない。
旧優生保護法下での障害者らに対する強制不妊手術や人工妊娠中絶を巡り、2024年に最高裁が旧法を違憲と判断したことを受け、国会は背景の分析や再発防止策の検証を始めた。
国会は違憲とされた旧法を立法し、政府は執行を担った当事者のため、第三者機関に委託した。委員には被害当事者や法曹、学識者ら26人が名を連ねる。約3年で報告書をまとめる方針だ。
手術に関する調査、原因や背景の分析、再発防止策の検討など、分科会を設けて役割分担して作業する。被害者や国会、省庁の関係者に聞き取り、自治体や医療機関に資料提供を求める。
全体像を明らかにし、障害者差別が起きた背景を解明して差別根絶への取り組みにつなげたい。
今回の検証に先立ち、国会は23年6月に約1400ページの調査報告書を公表した。
この調査では、自治体の多くが「個人情報保護」を理由に資料を黒塗りにして提出したほか、被害者への聞き取りが不十分だったという指摘がある。
実態を解明するためには、当事者の証言が極めて重要だ。
旧法を違憲とした訴訟の原告だった女性は「好きな人と結婚して、お母さんになる夢があった」と語った。子を産み育てる権利を奪われた苦しみは計り知れない。被害者一人一人の訴えを丁寧に受け止めてもらいたい。
1948~96年の旧法下による強制不妊手術は約2万5千件、人工妊娠中絶は約5万9千件行われたという。
最高裁判決では、国が身体拘束やだました上での手術を許容するなどして国策として推進したと指摘された。
人権を踏みにじる旧法が半世紀近く存続した経緯や、差別に当たる条文が削除された際に謝罪や補償がなされなかった理由なども解明してほしい。長年放置してきた国や国会の責任にも踏み込む必要があろう。
一方で、被害者への補償は進んでいない。こども家庭庁によると、被害者への補償法で認定された数は今年8月末までの累計で1317件と、ごく一部にとどまる。
差別や障害の重さ、高齢化により自ら名乗り出られない人だけでなく、手術したことを知らされていないケースもあるだろう。補償があることを知らない人もいると考えられる。
被害者の高齢化は確実に進んでいる。国の責任で被害者への補償を急ぐべきだ。