中国近代文学の父とされる魯迅は、1921年発表の「故郷」で次のように書いた。〈希望は元々あるものとも、ないものとも言えない。それはまさに地上の道のようなもの。本来、地上に道はなく、歩く人が増えれば、そこが道になる〉

▼故郷に別れを告げる物語を締めくくる言葉だ。希望は切り開いた先に見いだすものと解釈する。魯迅の言葉を、本県で障害のある人々に希望の灯をともしたその人にささげる

▼障害がある人の自立を支える組織を運営した新潟市西区の篠田隆さんが、この夏、病気のため66年の生涯を閉じた。自ら重度の脳性まひで手足の自由を奪われながら、望む通りに地域で当たり前に暮らす生活を実践し、先駆者となった

▼心の自由を希求し続けた。実家を離れて施設にも入らず、同じ重度障害のある恵さんと87年に結婚した。理解者らの支援に頼るところは頼り、2人の息子を育てて孫2人に恵まれた

▼公的な障害福祉が貧困だった時代に、人としての尊厳を守るために行動した。役所で「障害者を支援しても何の見返りもない」と突き放されもしたが、一歩一歩の前進が現在の在宅支援制度の礎になった

▼市内で先日、しのぶ会があった。「心で動く人だった」「立ち向かっていく力があった」。おちゃめで、とんがって、人間味あふれる人柄を語り合った。篠田夫妻のおかげで自立生活が享受できていると、感謝する車いすの男性もいた。篠田さんは晩年「いい人生だった」と周囲に何度も伝えていたという。