高校に入学して初めての遠足。周囲は友達と一緒に弁当をほおばっていたのに、自分は一人で食べていた。卒業アルバムには、ぽつんと一人で食べる自分の写真が載った。「何とも、嫌な気分だった」
▼作家の小谷野敦さんが著書「友達がいないということ」で振り返っている。胸の痛む思い出だろう。腹を割って話せる友達がいれば、ありがたい。人生も豊かになりそうだ。けれど友達作りが得意な人ばかりではない
▼自分には友達がいない。そう思う人にとって人工知能(AI)は心強い存在かもしれない。対話型の生成AIが登場し、私たちは膨大な情報の集合体と会話できるようになった。ブッダの教えやソクラテスの哲学を学習し、人生相談をすれば偉人のような言葉が返ってくるものも開発されたという
▼友達のように寄り添ってくれれば助かるが、ぞっとするような話もある。何でも肯定してくれるAIとの対話を続けた結果、自殺や殺人につながったケースが米国で相次いで報じられた
▼ある高校生は生きる意味に疑問を抱き、自殺をほのめかした。AIは「恥ずかしいことではない」と同調し自殺の手法を尋ねられるたび、詳細な情報を提供した。高校生は教えられた通りに命を絶った
▼開発企業を提訴した両親は、他社との競争に勝つため、利用者がAIに感情的な依存を高めて長時間対話するように設計していると主張した。時には耳の痛い指摘もしてくれるのが真の友達-。そんなふうに言われたこともあったような。