独裁政権に対抗し、民主主義を実現しようとする姿が評価された。自国や、各国の抑圧下にある人々にも勇気を与えるだろう。受賞を祝福したい。
世界でも、異なる価値観を排除しようとする動きが広がる。圧政を許さないというメッセージを重く受け止めたい。
ノルウェーのノーベル賞委員会は、今年のノーベル平和賞を南米ベネズエラの野党指導者マリア・コリナ・マチャド氏に授与することを決めた。
授賞理由は、国民のために「民主的権利を促進してきた取り組み」で、マチャド氏が「近年の中南米において類いまれな勇気を示した」と評価された。
マチャド氏は独裁化が進むベネズエラで、政府を鋭く批判してきた。昨年の大統領選への出馬を目指し、野党予備選では圧勝したが、政権から立候補を禁じられた。
それでも代替候補とともに支持を訴え、反政権運動の顔であり続けてきた。
現在は、拘束を避けるために身を隠すがインターネットを通じて発信を続ける。平和賞授与の知らせに「賞は国民の民主主義への取り組みへの評価だ」と語った。
揺るがない信念と行動力に敬意を表したい。
ベネズエラでは2013年に大統領に就任したマドゥロ氏が国会から権限を剝奪して三権を掌握し、不正な選挙や投獄で野党議員を弾圧している。国民への抑圧も顕著で、国外流出が続く。
昨年の大統領選でも、政権の影響を強く受ける選挙管理当局が詳細な開票結果を示さないままマドゥロ氏の当選を発表し、国際社会から強い批判を受けた。
票が操作されたという疑惑は晴れず、日本や欧米各国は勝利を認めていない。マチャド氏も「私たちの勝利だ」と訴えている。
選挙は民主主義の根幹であり、不正が行われれば国民の声は届かない。マチャド氏が、公正な選挙を求めてマドゥロ政権と対峙(たいじ)したことも授賞理由になったのは当然といえよう。
今回注目したいのは、「法の支配を権力者が乱用し、社会が権威主義的な方向に追いやられる傾向が世界で広がっている」として、ベネズエラの抑圧的な統治は例外ではないと指摘されたことだ。
「世界的に民主主義が後退し権威主義がはびこる」状況に警鐘を鳴らしたものだとみる識者もいる。ウクライナに侵攻するロシアは、その一例だろう。
そうした状況は、放置すればさらなる拡大を招きかねない。人ごととせず、マチャド氏ら圧政に抵抗する人へ関心を寄せることが重要となる。
「民主主義は、持続的な平和の前提条件だ」としたノーベル賞委員会の言葉を胸に刻み、国際的な支援の体制を築きたい。