経済成長を重視し、防衛力も強化する。積極政策を打ち出す一方で、財源や負担の在り方は棚上げした。これでは財政健全化が見通せず、先行きに不安が募る。
岸田政権下で初となる経済財政運営の指針「骨太方針」が閣議決定された。
安倍政権の経済政策「アベノミクス」の路線を継承するとともに、「資産所得倍増プラン」を掲げ家計に金融商品への投資を促す。
岸田文雄首相の看板政策「新しい資本主義」の実行計画にある人への投資、科学技術、スタートアップ(新興企業)、脱炭素・デジタル化の4分野を成長戦略の柱に据え、重点的に投資する。
ウクライナ危機を踏まえて防衛力強化も明記。新型ウイルス禍で疲弊した経済社会活動の一日も早い正常化を目指す。
骨太方針は、7月10日投開票が想定される参院選に向けた事実上の政権与党公約となる。聞き心地のいい政策が並ぶのは、選挙を強く意識しているからだろう。
懸念されるのは、今後の財政運営についての明確な方針が示されなかったことだ。
財政健全化の要である国と地方の基礎的財政収支(プライマリーバランス)については、「2025年度の黒字化」といった具体的な目標が削除され、「これまでの財政健全化目標に取り組む」と表記された。
目標が削除された背景には、骨太方針に盛り込むべきではないといった安倍晋三元首相ら積極財政派の圧力があった。具体的な年度は消えたが「これまでの目標」と記載したことで、岸田首相が健全化の旗を守ったとも指摘される。
しかし具体性を欠いては実効性に疑問が湧く。
税収で将来返済する必要がある国の借金「長期債務残高」は、21年度末に初めて1千兆円の大台を超えた。将来世代への負担をどう考えるか、議論を先送りせず、国民にしっかり示すべきだ。
一方で、防衛費を巡る表記は具体的な記述となった。
「防衛力を5年以内に抜本的に強化する」として防衛費の増額を見込んだ。北大西洋条約機構(NATO)加盟国が国防費の目標を国内総生産(GDP)比2%以上としていることを引き合いに出し、本文に明記した。
これについても安倍氏が派閥会合で「骨太方針に目安を明示し、国家意思を示すべきだ」と求めたことが発端になったと伝わる。
参院選を前に挙党態勢をつくりたい首相の思惑が透ける。
防衛費は際限のない膨張を防ぐため、長年GDP比1%程度を目安とされてきた。
そうした経緯がある中で、国際情勢の急激な変化や党内の圧力に押され、数値目標を引き上げてしまっていいのかどうか。慎重に議論するべきだ。
