不信任決議案は本来なら野党が結束して臨むべきものだ。にもかかわらず、足並みは全くそろわなかった。与党と対峙(たいじ)するにはあまりに迫力を欠いている。

 岸田内閣と細田博之衆院議長に対する不信任決議案が衆院にそれぞれ提出され、9日、与党などの反対多数で否決された。

 両案とも立憲民主、社民両党が提出し、共産党が賛成した。

 内閣不信任案は政権と対決する野党の切り札だ。趣旨弁明で立民は、物価高対策を巡り「国民生活の苦境を放置するのは許されない。経済無策だ」と批判した。

 今国会はウクライナ危機で与野党が結束した対応を迫られる場面が多かった。野党第1党の立民には、22日公示が想定される参院選に向け、与党との対決色を示す意図があったに違いない。

 自民党は「選挙目当て」と即座に否決した。

 しかし、同じ野党である日本維新の会、国民民主党も「政治空白をつくることは国民のためにならない」などとして立民を非難し、反対に回った。

 参院選を前に、支持率の高い岸田政権を批判することは得策でないという判断もあるだろう。

 ただし、不信任案に反対することは政権を信任することとも受け取れる。野党として両党は国民にどう説明するのか。

 立民も野党をまとめる力のなさを露呈し、参院選の課題を浮き彫りにしたといえる。

 一方、細田議長不信任案の提出は、週刊誌で報じられたセクハラ疑惑への説明責任を果たしていないことが理由だ。

 衆院小選挙区定数「10増10減」に否定的な発言や、議員定数増の主張も問題視し、「国会の議論で決めた議員定数や歳費などを否定し、立法府をないがしろにしている」と指弾した。

 セクハラ疑惑について、細田氏は「事実無根」として週刊誌側に抗議文を送ったというが、公の場で説明しなくてはいけない。

 10増10減発言には、議長経験者も「最高裁の判断を無視すれば司法の権威、国会の見識が問われる」と疑問を投げ掛けている。

 1票の格差の意義を理解していないのではないか。立法府の長としての資質を疑う。

 採決に当たり、自民党は「週刊誌報道に便乗した不信任案は全く理解に苦しむ」と述べ、立民を批判した。野党の維新、国民、れいわ新選組は棄権した。

 与党だけでなく、棄権した野党3党は問題に向き合おうとせず、国会の議論を軽んじるような議長の姿勢を許したことになる。うやむやにしてはならない。

 岸田文雄首相はこの問題を「議長が適切に対応されると思っている」と傍観するのではなく、議長に推薦した自民党の総裁として、きちんと対応するべきだ。