政権が選挙を意識して対決を避けるのでは政治は活性化せず、停滞を招きかねない。国際情勢や経済環境の急激な変化に不安を抱く国民に真摯(しんし)に向き合っていると言えるか、憂慮を覚える。
岸田政権になって初の通常国会が15日、予定通り閉会した。7月投開票の参院選が迫る中で、会期延長はされなかった。
今国会は、岸田文雄首相の政治姿勢やビジョンを明確にして国民に示すための大切な論戦の場だったが、活性化には程遠く、極めて低調なまま会期を終えた。
政府が今国会に新規で提出した「こども家庭庁」設置関連法など61法案は全て成立した。
首相は国会閉会後の記者会見で法案について「全てを会期内に成立させることができた。26年ぶりのことだ」と誇示してみせた。
だがそれは、参院選を控えて、政権側が野党と激しい対決となることが想定される法案の提出を避けたことが大きい。
ロシアによるウクライナ侵攻や円相場の急落で世界経済が揺らぐ中、半導体など重要物資の供給網強化を柱とした経済安全保障推進法など、与野党の方向性に大きな差がないものもあった。
首相は野党が求めた党首討論の開催にも応じなかった。一対一の論戦で追及される場面を避けようとしたようにも映る。
安全運転で野党に攻撃材料を与えずに通常国会を終え、参院選を乗り切れば、衆院の解散がない限り、2025年まで大きな国政選挙はなく、政策課題に集中できるとの政権の狙いが透ける。
だが国会は論戦の場である。そのことを忘れてもらっては困る。
解決を急ぐべき課題がまた先送りされたのも由々しきことだ。
国会議員に月額100万円が支給される「調査研究広報滞在費」(旧・文書通信交通滞在費)の抜本的な見直しは昨年の臨時国会に続き今国会でも実現しなかった。
与野党は臨時国会で積み残された使途公開と未使用分の国庫返納に、今国会の会期内に結論を出す方針を確認していたはずだ。
派閥活動など政策関係以外の支出が多い自民党が、見直しに後ろ向きだと野党は批判している。
調広費の原資は税金であり、先送りは国民への裏切りと言える。
緊張感を欠く通常国会となったことには野党側の責任もある。
野党第1党の立憲民主党はセクハラ疑惑を報じられた細田博之衆院議長や岸田内閣への不信任決議案を提出したが、野党内の足並みが乱れ、切り札にできなかった。
22年度予算に賛成した国民民主党に対して首相が答弁で協調姿勢を示すなど、与党側に野党の分断を図る隙を与えた。
野党が政権に対抗できず、論戦を深められなくなれば、政治は健全性を失う。野党各党はしっかりと戦略を練り直してもらいたい。
