世界の平和と安全が危機にひんしている。「核兵器なき世界」に向け、新たな規制を早急に策定しなければならない。

 米国とロシアの間に残る唯一の核軍縮合意、新戦略兵器削減条約(新START)が失効した。二大核保有国の均衡が崩れ、中国なども加え、制限なき軍拡競争に突入する事態を憂慮する。

 新STARTは、戦略核弾頭の配備数を初めて制限した第1次戦略兵器削減条約(START1)の後継で、2010年に調印された。配備戦略核弾頭数を最低水準の1550に制限し、21年に5年延長で合意した。

 しかし、22年にロシアがウクライナに侵攻、米ロ関係が急速に悪化し、ロシアは条約の履行停止を表明していた。

 米ロは冷戦以降、核兵器数を際限なく競った教訓から核軍縮を続けてきた。その努力が条約失効で途絶えることは残念でならない。

 ウクライナ侵攻を続けるプーチン大統領はたびたび核使用の可能性に言及し、トランプ米大統領は「力による平和」を掲げている。

 両国は世界の核兵器の約9割を保有する。駆け引きの激化は不測の事態を招く可能性があることを、十分自覚してもらいたい。

 約190カ国・地域が加盟する核拡散防止条約(NPT)は核保有国に核軍縮に向けた交渉を義務付け、他の国の保有を禁じる。

 米ロが核軍縮の取り組みを放棄すれば、NPT体制の実効性が大きく損なわれかねない。非保有国に核の広がる事態が危惧される。

 米報道によると、米ロは新たな合意に向けた議論を開始する方向で調整しているというが、課題が山積している。

 トランプ氏は、新合意に核戦力増強を進める中国も加えるべきとの立場だ。だが、中国は自国の核戦力が米ロに及ばないため、交渉参加を望んでいないとされる。

 また、ロシアは北大西洋条約機構(NATO)加盟国で核兵器を保有する英国とフランスを加えるよう主張しているが、実現の見通しは立っていない。

 核兵器は一度使われたら、人類の滅亡につながりかねない。米ロは緊張感を持って交渉の糸口を探ってほしい。

 国際社会も働きかけを強めたい。とりわけ日本は唯一の戦争被爆国として、核廃絶へ努力する重責を負っている。

 高市早苗首相は就任前、国是である非核三原則のうち「持ち込ませず」の部分が米国の抑止力を低下させかねないと見直しを提起した経緯がある。

 首相は就任後、踏み込んだ発言を控えているが、連立を組む日本維新の会幹部や官邸筋からは核保有に関する発言が相次いでいる。

 核廃絶に逆行し、周辺国との間の緊張を高める言動は、厳に慎まなければならない。