「これまでの新型コロナ対応を徹底的に検証する」。昨年12月の所信表明で強調した首相の言葉は空約束だったのか。不十分な検証のまま新たな組織をつくっても実効性があるのか疑問だ。
政府の新型コロナウイルス対応を検証する有識者会議が報告書をまとめた。
これを踏まえて、岸田文雄首相は、米疾病対策センター(CDC)をモデルとして科学的知見の発信を担う専門家組織「日本版CDC」の創設など、感染症対策の司令塔機能の強化策を表明した。
有事に企画立案や総合調整機能を担う「内閣感染症危機管理庁」を新設することも決めた。ただ、設置時期や人事などについてはこれからで、中身が煮詰まっているとは言い難い。
新型ウイルスの国内初の感染確認から約2年5カ月、この間の政府の対応を巡っては、検査や医療体制、情報発信など多くの点で後手に回ったと批判された。
報告書は、2009年の新型インフルエンザ流行後に医療機関と行政の連携強化が求められていたにもかかわらず、危機意識が薄れて体制が構築されず、検査不足や医療逼迫(ひっぱく)が起きたと指摘した。
縦割り行政の弊害や、政府と都道府県との間で調整が難航したことも反省点として示した。
こうした指摘はうなずける。だが、さまざまな対策の効果を徹底分析していないのは不十分だ。
緊急事態宣言などの発令時、飲食店に対し度重なる営業の自粛が要請されたことには、業界から実際の効果や店への支援策に関して疑問や不満の声が出ていた。
報告書は「要請を行う場合には、内容や期間を必要最小限にするとともに、状況の変化に応じて柔軟に見直すことが重要」とした。
ただ、人の行動と経済活動を制限するに見合う効果があったのかは不明なままだ。
一斉休校やアベノマスクの配布、感染拡大が収まらない中での「Go To トラベル」事業開始など、賛否が分かれた政策の妥当性にも踏み込まなかった。
効果の見極めは、しっかりとした検証に欠かせないはずだ。
看過できないのは、対策を主導した安倍晋三元首相や菅義偉前首相ら政権中枢の聞き取りもしていないことだ。これでは政策の意思決定過程が全く分からない。
報告書は5月中旬の初会合からわずか1カ月でまとめられた。参院選を前に、報告書を踏まえた新組織の創設を国民に示したいという岸田首相の思惑が透ける。
政権幹部からは「深く検証すると歴代の政権批判になりかねない」との本音が漏れる。選挙をにらんだご都合主義にはあきれる。
政府に求められるのは、これで検証を終わりにせず、専門家らの意見をもっと聞き、改善点を浮き彫りにしていくことだ。
