急激な物価の高騰で暮らしは厳しさを増している。新型コロナウイルス禍は落ち着きつつあるとはいえ、油断はできない。
国際情勢も不安定さを増す中で安心社会の道筋をどう描くのか、骨太な議論を聞きたい。
参院選がきょう22日公示され、7月10日の投開票に向けて熱い論戦が繰り広げられる。
選挙は、昨年10月に発足した岸田政権に対する中間評価と位置付けられる。日本の進む方向性も問われている。
争点は物価高や感染症対策といった身近な課題から、国際情勢の緊迫化を受けた防衛力強化の是非、憲法改正など国の行方に関わるものまで多岐に渡る。
県民にとっては人口減少や地方振興、原発・エネルギー対策も重要だ。将来展望をしっかり示してほしい。
◆問われる岸田カラー
安倍、菅政権時代は、数の力を背景にした与党の強引な国会運営が目立った。新型ウイルス対応は後手だと批判された。
岸田文雄首相はこうした教訓を踏まえ、自らの特技とする「聞く力」を武器に政策の優先順位を変えてきた。
共同通信社の世論調査によると、内閣支持率は6割近くを維持している。
首相は21日の日本記者クラブ主催の党首討論で政策遂行について「状況の変化に対応して決断を重ねてきた」と強調した。
無難な政権運営のように映るが、「岸田カラー」が色あせている面も見逃せない。
看板政策「新しい資本主義」は当初力点を置いた格差是正や分配政策が後退し、アベノミクスの焼き直しが目立つようになった。自民党最大派閥の安倍派への配慮とみていい。
公示直前に、感染対策の新たな司令塔「内閣感染症危機管理庁」や、物価高対策などを検討する対策本部の設置を次々と打ち出した。参院選に向けてアピールする狙いが見て取れる。
一方で、財政健全化を巡る具体的な議論を先送りしているのは見過ごせない。国の借金が膨らむ中で、将来の負担に国民は不安を募らせている。
財源問題も論戦でしっかり掘り下げなくてはならない。
野党各党は、物価高対策を選挙の大きな争点と位置付ける。
ロシアによるウクライナ侵攻などを受けて物価は高騰する一方、賃金は上がらない。家計や中小企業の経営に与える打撃はさらに増す恐れがある。
◆物価高の処方箋示せ
立憲民主党の泉健太代表は党首討論で、物価高解消に向けゼロ金利政策の見直しを迫った。立民や日本維新の会、共産党など多くの野党は消費税の減税や廃止を掲げる。
これに対し首相は「エネルギー、食料品の価格高騰に政策を集中している」として、現行の金融緩和策を支持し、消費税の減税も拒否した。
問われるのは、国民が安心できる実効性ある政策だ。
ウクライナ危機や北朝鮮の核・ミサイル開発などで国際社会の平和が脅かされ、安全保障を巡る問題も大きな論点に位置付けられる。
自民は公約に、相手領域内のミサイル発射基地などを破壊する「反撃能力」の保有を掲げるが、憲法9条に基づく専守防衛の原則を揺るがしかねないとも指摘される。
防衛費の在り方を含め、各党は有権者に対して考え方を丁寧に語ってもらいたい。
3年前の前回選挙では、野党5党派が32の改選1人区全てで候補者を一本化したが、今回は3分の1にとどまる見通しだ。
こうした野党の戦い方が選挙区や比例の議席にどう影響するかについても注目したい。
この参院選の後は衆院解散がなければ2025年まで大きな国政選挙はない。
私たち有権者は各党、各候補者の訴えに耳を澄ませ、将来の安心につながる選択をしたい。
