大会がもたらしたレガシー(遺産)は何だったのか。成果に胸を張るだけでなく、負の側面にも向き合わなければならない。

 東京五輪・パラリンピック組織委員会は、新型コロナウイルス感染拡大により昨年夏に史上初めて1年延期で開催された大会の経費が、総額1兆4238億円になるとの最終報告を公表した。

 昨年12月に示した見通しから292億円圧縮された。延期や感染対策などで追加経費が生じた中、簡素化を進めた結果だとした。

 「見積もった額より少なく着地させることができた。やるべきことはやった」と組織委幹部は会見で強調した。

 以前から批判されていた五輪の「高コスト化」を見直し、簡素化に努めたのは当然としても、結果として巨額な経費に膨らんだことは見過ごすわけにはいかない。

 招致段階の2013年に東京都が公表していた開催経費は、国際オリンピック委員会(IOC)が求める項目のみで7340億円とされていた。

 その後、建築資材や人件費の高騰、ウイルス対策費などがかさみ、総額は2倍近くに膨らんだ。

 暑さ対策など関連経費も含めれば2兆円を大きく上回るとされるが、経費の全体像は不明だ。

 感染禍で試合は原則無観客となり、チケット収入はほぼ消えた。組織委と都、関係機関などは費用負担を巡る調整で混乱した。

 負の側面は、巨額な経費だけではない。人々の交流機会はほとんどなく、経済効果も乏しかった。

 組織委はIOCに提出した公式報告書で、安全、安心を最優先に「各国都市が代々つないできた五輪・パラを引き継ぐという責務を果たした」と総括したが、感染禍の中で開催した東京大会の明確な意義は伝わってこない。

 森喜朗前会長の女性蔑視発言など、問題となった組織委幹部らの言動に関する認識にも目を疑う。

 報告書では「ジェンダー平等や多様性と調和の重要さを再認識する契機となった」と肯定的に盛り込み、森氏辞任後の取り組みを大会の成果に挙げた。発端となった問題を掘り下げて総括しようという姿勢が弱すぎる。

 競技会場を巡っては、メイン会場だった国立競技場の今後の具体的な活用法が決まっていない。都が建設した会場も周辺施設が不十分で、有効活用が軌道に乗るには時間がかかる施設がある。

 政府や都は、施設が負の遺産とならないよう着実に進めていかなければならない。

 競技面では、スケートボードなど都市型スポーツの導入が注目された。選手たちが健闘をたたえ合う姿は多くの感動を呼んだ。スポーツの力を改めて実感する大会になったことは評価したい。

 札幌市が目指す30年冬季五輪・パラ招致は、東京大会の不信が影を落とし、熱気に乏しい。

 招致への国民の理解を得るには、東京開催の意義をきちんと問い直していくことが欠かせない。