ロシアのウクライナ侵攻で国際情勢が緊迫している。中国が軍事面で台頭し、北朝鮮はミサイル発射を続けている。

 そうした状況下で、参院選では平和主義の根幹を成す憲法や安全保障に焦点が当たっている。今後の国の在り方が問われると言っても過言ではない。熟議が必要だ。

 この選挙で、自民党と公明党の与党に、日本維新の会、国民民主党などを加えた「改憲勢力」が82議席を確保すれば、衆参両院とも国会発議に必要な総議員の3分の2以上に達する。国会で憲法改正が大きく動く可能性がある。

 各党の主張に目を凝らさなければならない。中でも注目すべきは憲法9条を巡る論点だ。

 自民は9条への自衛隊明記といった党憲法改正案4項目を緊急の課題とし、早期の改憲を目指す。

 同じ改憲勢力では、維新が自衛隊を憲法に位置付ける9条改正を訴える。公明は引き続き検討するという立場だ。国民は具体的議論を進めるとしている。

 緊迫する国際情勢を受け、自民は、「反撃能力」を保有して防衛力を強化することを掲げる。

 反撃能力は、相手領域内でミサイル発射を阻止する敵基地攻撃能力を自民が言い換えたものだ。

 憲法解釈で、9条に基づく専守防衛を逸脱する恐れがあるとも指摘されている。

 維新は防衛力を必要最小限に限るとの規定を見直す。公明は専守防衛の下で防衛力の整備、強化を図る。国民は専守防衛に徹しつつ必要な防衛費を増やすと訴える。

 一方、立憲民主党は「論憲」を進めるとし、9条への自衛隊明記は戦力不保持や交戦権否認を定めた9条2項の法的拘束力が失われるとして反対を鮮明にしている。共産党、社民党は改憲に反対だ。

 考え方が分かれる問題だ。国民が理解を深められるような論戦が展開されなければならない。

 憲法を巡る論点は、テロや大規模災害など緊急事態に対応するための緊急事態条項や、参院選で隣接県を一つの選挙区にする「合区」、「1票の格差」を巡る問題など多岐にわたる。憲法は、家族の在り方や個人の生き方まで深く影響するものだ。

 自民の茂木敏充幹事長が「選挙後できるだけ早く改憲原案を国会に提出したい」と話すなど、参院選の結果によっては改憲は前のめりで進みかねない。

 共同通信社が公示後の26~28日に行った世論調査では、参院選で重視する政策で、「憲法改正」と答えた人は3・3%にとどまった。有権者が改憲を急いでいるとは言い難い。

 有事の議論にあおられることなく、議論を積み重ねたい。私たち有権者もしっかり関心を向けなくてはならない。