節目に印象付けたのは、習近平指導部の影響力と民主派に対するさらなる統制の強まりだ。香港に約束されたはずの自由と自治は大きく歪(ゆが)められた。

 香港は1日、英国から中国に返還されて25年を迎えた。中国の習近平国家主席が出席し、現地で記念式典が開かれた。

 新選挙制度で香港政府トップの行政長官に当選した李家超氏の就任式も同時に行われ、警察出身の李氏が返還後5人目の行政長官に就任した。

 香港は1997年に英国から返還され、中国の特別行政区となった。社会主義に資本主義を併存させ、高度の自治を認める「一国二制度」を取り、憲法に当たる「基本法」は返還後も資本主義を50年間維持することを約束した。

 その折り返しとなる記念式典で、習氏は香港の混乱を収めて安定化させたとの立場を示し、一国二制度は「誰もが認める成功を収めた」と強調した。

 しかし香港の現状をそう見るには無理がある。

 香港では2014年に行政長官選の民主化を求める大規模デモ「雨傘運動」が起き、19年には返還後最大規模のデモに発展した。

 そうした反政府的な動きを取り締まるため20年に「香港国家安全維持法」(国安法)が施行され、21年には愛国者による統治を目的に新選挙制度を導入、民主派が議会から一掃された。

 習氏は一連の統制強化を正当化したいのだろうが、返還時の香港に約束された言論、集会の自由をほごにし、人権を著しく脅かしたと言わざるを得ない。

 今回の返還記念日を巡っても、民主派が例年実施してきたデモは主要メンバーが警察に連行され、実施しないよう圧力を受けた。

 香港記者協会によると、式典取材を認められていた複数のメディアの記者が「安全上の理由」で突然許可を取り消された。

 国安法に基づく取り締まりで民主派の香港紙、蘋果(ひんか)日報(リンゴ日報)が昨年6月、廃刊に追い込まれ、ほかの民主派メディアもその後運営を停止している。香港で政府を厳しく批判できるメディアは壊滅状態にある。

 民主派や言論活動への締め付けが強まる中で、英国のジョンソン首相が節目に当たり、50年間制度を維持するとの約束が揺らいでいると指摘したのは当然だ。

 懸念されるのは、強硬姿勢で知られる李氏が行政長官に就任したことで、香港社会への統制が一層強化されそうなことだ。

 李氏は当選後の記者会見で「香港破壊を狙う多くの勢力がまだ潜伏している」との認識を示し、国家への反逆などを罰する国家安全条例制定を推進すると述べた。

 民主派への不当な統制強化は許されない。国際社会が引き続き、香港情勢を見守る必要がある。