歯ぎしりしたくなるような日常はほんの数年前だった。新型ウイルス禍に翻弄(ほんろう)され、人に会えない。病院は面会禁止。会食もイベントも自粛…。今春出版の「コロナ禍、誰が何を伝えたか」を読み、緊張が続いた日々を思い出した

▼巻末の資料から、今ごろの時季の出来事を振り返る。第1波の2020年5月には「夏の甲子園」中止が発表された。翌年5月は東京などで3度目の緊急事態宣言の期限が延びた。そして23年5月、対策が緩和される5類感染症に移行した。今日でそれから3年になる

▼同書は同志社大で科学コミュニケーションを教えるグループがまとめた。感染数は減ったが今もゼロではない。しかし政府は総括しないまま幕を引いたと指摘する。専門家はパンデミック(世界的大流行)は再び起こると警告しており、先の教訓から、来たる災疫に備えたい-、といった問題意識がある

▼科学情報の発信を当時担った人へのインタビューを収録している。頻繁にテレビ出演した臨床医の忽那(くつな)賢志(さとし)氏は、修学旅行の中止など若い人に不自由を強いた一方「Go Toトラベルが突然始まったりと迷走した」と政府の対応に疑問符をつける

▼感染症学者の押谷仁氏は「ワクチン接種してもウイルスは変異してしまう。科学技術の限界が見えた」と振り返った。度が過ぎた犯人捜しや誹謗(ひぼう)中傷は再び起こりうると、くぎを刺す識者もいた

▼もし再来したら。あふれる情報にどう向き合い、行動するか。風化させない心構えを持ちたい。