民主主義の根幹をなす選挙の街頭演説に銃口が向けられるという異常な事態の中で、参院選はきょう投票日を迎えた。

 暴力で言論を封じ、安倍晋三元首相の生命を奪った。民主主義を冒瀆(ぼうとく)する卑劣な凶行を改めて強く非難する。

 選挙で自らの意思を示すことは民主主義の基本である。私たちが投じる1票が自らの自由を守る。その自覚を強く持ち、投票所へ向かいたい。

 政治家が殺害される悲劇は過去にもあった。戦前には、犬養毅首相が海軍の青年将校に暗殺される五・一五事件などが起き、言論の自由が失われた。

 戦後は社会党の浅沼稲次郎委員長が演説中に右翼の少年に刺され死亡。長崎市の伊藤一長市長は暴力団幹部に銃撃され亡くなった。

 言論や政治活動を萎縮させようとする暴力に民主主義は何度も脅かされた。今回の銃撃は、今なおそうした脅威が存在することを強く印象付けた。

 安倍氏銃撃を受けて、8日は多くの政党幹部が遊説を中止したが、選挙戦最終日の9日は、各党が安全対策を講じた上で、街頭演説を再開した。選挙活動をやめることは、テロに屈することになるとの認識からだ。

 それぞれが政策や信条を自由に訴え、意見を戦わせることは民主主義国家として当然で、絶対に守らねばならないことだ。

 ロシアがウクライナに軍事侵攻するなど、国内外で民主主義が揺らぐ中での選挙でもある。

 私たちの国の在り方について考え、安心して暮らせる社会を構築するには、どの候補者、政党に今後を託すべきか。社会に不安が広がっている時だからこそ、冷静に考えていかなければならない。

 岸田文雄首相は、勝敗ラインを「非改選を含めて与党で過半数」の55議席としている。与党勝利なら長期政権が視野に入る。

 選挙結果は、平和主義を是とし、戦後75年続いている憲法の行方を左右する。

 自民党と公明党の与党に、日本維新の会や国民民主党などを加えた憲法改正に前向きな「改憲勢力」が、82議席以上を確保すれば、衆参両院とも改憲発議に必要な総議員の3分の2以上の議席確保につながるからだ。

 中国が軍事的に台頭し、北朝鮮はミサイル発射を繰り返す。東アジア情勢も緊張が高まっている。

 そうした中で、憲法の在り方をどう考えるか。十分吟味して1票を投じなくてはならない。

 日常生活では相次ぐ値上げが家計を直撃している。人口減少や高齢化に伴う過疎化、新型コロナウイルス禍で地方は疲弊している。地域活性化へつながる道筋はきちんと示されたか。

 新潟選挙区の当選者は、本県の代表となる。地域の課題をしっかりと国政に伝えることができる候補者を選びたい。

 生活に直結するエネルギー政策は、東京電力柏崎刈羽原発が立地する本県にとって極めて重要な課題だ。選挙結果は再稼働問題の今後にもかかわってくるだろう。

 参院選での本県の投票率は2013年以来50%台が続き、若年層ほど低い傾向だ。

 若い世代が投票に行かなければ、これからの社会を支える若者の声が、政治に反映されにくくなる恐れがある。

 大切な民主主義をこれからも守っていくため、投票所へ足を運び、自らの意思を示したい。