民主主義の破壊は許さない。各党が強く訴え、有権者もその思いを票に託した。議席を大きく伸ばした与党はおごらず、国民の声にしっかりと耳を傾けなくてはならない。それこそが民主主義だ。
10日に投開票された参院選は125議席が争われ、自民党は単独で改選過半数を獲得して、大勝した。
非改選を含めた定数248の過半数も超え、自民、公明両党が設定した勝敗ラインを大きく上回った。
憲法改正に前向きな自民、公明、日本維新の会、国民民主党などの「改憲勢力」は発議に必要な3分の2を維持した。
衆院では改憲勢力が3分の2を占め、与党で絶対安定多数を確保している。解散しなければ、岸田文雄首相は2025年まで国政選挙のない「黄金の3年間」を入手したといえる。
国会内には「改憲の議論は政局から離れて静かな環境で行うべきだ」との論も根強く、これに従えば、その環境が整ったと見る向きもあるだろう。
岸田首相は10日夜、改憲に意欲を示し、発議に向けて「具体的な案をまとめる。この努力に集中していきたい」と述べた。
共同通信の世論調査では、有権者が選挙で最も重視する政策は物価高対策、年金・医療、子育て対策などで、憲法改正を求める声は少なかった。
世論の動向を見極めた慎重な議論がなくてはならない。岸田首相は前のめりにならず、丁寧な政権運営をしてもらいたい。
◆野党は戦略再構築を
投票日直前の8日、改憲に執念を燃やした安倍晋三元首相が街頭演説中、凶弾に倒れた。
政界に影響力を持つ政治家を襲った蛮行は、有権者に衝撃を与えた。投票行動に影響した可能性はあるかもしれない。
多くの国民が安倍氏への哀悼の思いを共有している。だが、改憲論議は冷静に考えなくてはならないだろう。
与野党対決が注目された全国32の改選1人区のうち、自民は28選挙区で勝った。前回の22勝を上回る躍進だ。
その一つ、新潟選挙区は自民新人の小林一大(かずひろ)氏が立憲民主党現職の森裕子氏を約7万票差で破り、初当選した。
新潟選挙区での自民の議席獲得は9年ぶり、改選定数が1になってからは初めてとなる。
自民、立民はそれぞれ最重点選挙区に位置付けた。岸田首相は小林氏の応援のため、新潟市を最後の街頭演説地に選ぶ力の入れようだった。
一方、森氏の野党共闘には今回、国民が加わらず、16、19年のようなオール野党の共闘態勢が組めなかった。
全国的にも野党は政権批判の十分な受け皿をつくれなかった。多くの1人区で野党と野党系無所属が競合した。
維新など議席を伸ばした党もあるが、野党全体とすれば敗北は明白で、最大の敗因は一枚岩になれなかったことだ。
惨敗の結果を真摯(しんし)に受け止め、与党に対峙(たいじ)していく戦略の練り直しが求められる。
選挙戦で与野党が最も対立したのは物価高対策だった。与党は野党が求める消費税減税を否定し、エネルギーや食料品に特化した対策を強調した。
補助金による対策には限度があろう。経済政策「アベノミクス」の功罪を検証し、経済再生の道筋を示してもらいたい。
◆「白紙委任」ではない
自民が圧勝したとはいえ、有権者は岸田政権に「白紙委任」したわけではない。重要な政策論議が低調だったことが否定できないからだ。
東京電力柏崎刈羽原発が立地する本県にとって、影響が大きいエネルギー政策の論戦も盛り上がりに欠けた。
電力需給が逼迫(ひっぱく)する中でも、原発再稼働を巡る問題には十分な検証と慎重な議論を欠かしてはならない。
新型コロナウイルス感染の流行「第7波」が懸念される中、医療提供体制の構築が急がれる。偏在が指摘される医療人材の確保策も必要だ。
「良識の府」と呼ばれる参院は、拙速に事を進めるのではなく、高い知識と見識を生かした熟議を重ねてほしい。
私たち有権者は国会に民主主義を託したままにするのではなく、政治に思いが反映されているかどうか、関心を向け続けていかなくてはいけない。
