隙だらけの警護警備だったのではないか。要人の命を守ることができなかったのは重大な失態だ。問題点を徹底究明し、態勢を見直さなければならない。

 奈良市で街頭演説中の安倍晋三元首相が銃撃され、死亡した事件を受け、警察庁の中村格長官が12日に記者会見し、「都道府県警を指揮監督する警察庁長官としての責任は誠に重い」と述べた。

 長官が個別の事件で責任を認めるのは異例だが、事件の深刻さを踏まえれば当然だ。

 会見が8日の事件発生から4日後に行われたのも遅すぎる。それまで公の場では、警備に当たった奈良県警の幹部が会見で説明する程度だった。元首相が襲われたということを考えれば、現場任せと批判されても仕方あるまい。

 警察庁は、警護に関する「検証・見直しチーム」を設置し、8月中に検証結果をまとめる方針だ。

 現行犯逮捕された男は、演説中の安倍氏に背後から近づき、自作した銃で2発発射した。

 当日の警備を巡っては問題点が幾つも浮かぶ。

 その一つは演説場所の安全対策だ。安倍氏はガードレールで囲まれた場所に立ち、360度どこからも捉えられる状況だった。

 警備に詳しい識者は、車両を配置するなどして安倍氏の背後のスペースをなくす対策を講じるべきだったと指摘する。

 2発目の発射をなぜ許したのかも検証のポイントだ。

 現場ではSP(警護官)ら複数の警察官が警戒に当たっていた。男が撃った1発目から2発目までは約3秒間あったとされ、その間に安倍氏に覆いかぶさって身を守るなどの対処は可能だったとの見方がある。

 人員配置は適切だったのか、SPを派遣した警視庁と奈良県警との連携は図れていたのか。県警の警備に対する警察庁の指導監督についても問われよう。

 選挙は民主主義の根幹だ。街頭演説は有権者が政治家の政策や人柄に触れる機会でもある。今回の事件は、それを踏みにじった。

 警備の見直しを急ぎたい。ただ、強化が過ぎれば政治から国民を遠ざける懸念が出てくる。警備の在り方についてはこうした観点からの議論も必要だ。

 男は、宗教団体の世界平和統一家庭連合(旧統一教会)に入信した母親が多額の寄付をしたため団体に恨みがあったとし、「団体と元首相がつながっていると思ったから狙った」と供述している。

 銃や火薬はインターネットで製造方法を調べ、自作したという。事件前日には別の銃を持って安倍氏が演説した岡山市の会場に行ったと説明している。

 常軌を逸した犯行に改めて強い憤りを覚える。警察は、動機や背景も含めた事件の全容解明に力を尽くさねばならない。