東アジアの緊張が高まる中、戦後最悪と言われるほど冷え切った日韓関係を改善へ向かわせるためには対話の継続が欠かせない。

 韓国の朴振(パクチン)外相が初来日し、岸田文雄首相、林芳正外相と会談した。5月に就任した韓国の尹錫悦(ユンソンニョル)大統領は日韓関係修復に積極的な姿勢を示しており、朴外相来日はその道筋を付ける狙いがある。

 融和に向けた第一歩になると期待される。それには両国間に横たわる諸問題の具体的な解決策を示さなくてはならない。

 その一つである元徴用工問題は、朝鮮半島出身の労働者らが、日本の植民地時代に強制労働させられたなどとして賠償を求め提訴したものだ。

 日本側は、1965年の日韓請求権協定で解決済みとしているが、2018年に韓国の最高裁は被告の日本企業に賠償を命じた。

 日本企業が賠償に応じないため原告側が企業資産を差し押さえ現金化する手続きを進めている。

 首相は19日、朴外相に「日韓間の懸案解決に向け尽力してほしい」と述べた。

 朴外相は、林外相に日本企業の資産が現金化される前に解決策を出せるように努力すると伝えた。政府関係者や専門家らによる官民共同協議会を設置し、解決に向け議論していることも説明した。

 ただ韓国国内では、敗訴した日本企業の一部負担と謝罪が必要だと主張する原告支援団体があるほか、協議会への不参加を決めた団体もある。

 韓国最高裁が8~9月にも売却命令を確定させるとの観測が出ている。日本企業の資産が現金化されれば、さらなる関係悪化が避けられない。

 期限が迫る中で決着させられるか、尹政権の手腕が問われる。

 朴外相は首相に「日本側の誠意ある呼応を期待する」と述べた。前途多難が想定され、日本側の協力なしでの解決は難しいとの本音もにじませている。

 外相会談では、両国間の協議を加速させる方針も確認した。根気強く取り組んでもらいたい。

 元慰安婦問題について朴外相は、文在寅(ムンジェイン)前政権が事実上破棄した15年の日韓合意を、公式合意とする考えを示したが、当然だ。合意に基づいて解決に向かわなければならない。

 中国は軍事的台頭を強め、北朝鮮がミサイル発射を繰り返す中で日韓の連携は不可欠だ。

 長年の懸案である北朝鮮による拉致問題を解決するためには、これ以上の日韓関係の悪化は避けなければならない。

 日本が世界文化遺産登録を目指す「佐渡島(さど)の金山」についても、文前政権は朝鮮半島出身者が戦時中に「強制労働させられた現場だ」と反対していた。

 これらの問題を前進させるために、両国は努力を重ねてほしい。