五輪の運営に関わった有力者サイドへの多額の資金提供が明らかになった。捜査当局は資金の流れや趣旨など全容の究明に力を尽くさねばならない。
東京五輪・パラリンピック組織委員会の高橋治之元理事が代表を務める会社が、大会オフィシャルサポーターだった紳士服大手AOKIホールディングス側と大会前にコンサルタント契約を結び、計約4500万円を受領していた。
東京五輪・パラ特別措置法は、組織委の役員や職員を「みなし公務員」と定めている。職務に関して賄賂を受け取れば、刑法の収賄罪に当たる可能性がある。
高橋氏は2014年に理事になった。AOKI側とコンサル契約を締結したのは17年9月だ。
一方、AOKI側は翌18年10月に組織委とエンブレムの使用権などが与えられるオフィシャルサポーター契約を結んだと発表した。19年夏から一般向けにエンブレム付きのスーツなどを販売し、3万着以上を売り上げた。
コンサル契約からオフィシャルサポーターになるまでどのような経緯があったのか。契約内容や実態はどうだったのか。多くの疑問が浮かぶ。
高橋氏とAOKIホールディングス前会長の青木拡憲氏は、取材や東京地検特捜部の調べに対し資金の授受を認めている。
捜査で大きな鍵を握るのは、資金の趣旨の解明だ。
高橋氏は取材に対し、コンサル契約の内容は「AOKIの経営全体や新規事業への提案」などとし、不正はないとの認識を示す。
青木氏は、特捜部の任意聴取に「(当時理事だった)高橋さんの人としての力に期待した」と供述している。
コンサル契約後、青木氏は部下に対し、高橋氏に依頼したいことを示すよう伝達。部下は五輪ライセンス商品の販売のため、高橋氏の力がほしいとの内容を青木氏にメールで伝えたという。
AOKI側に五輪ライセンス商品販売への便宜を高橋氏に期待する意図があったのか。
高橋氏は広告大手電通の元専務で、国内外のスポーツ分野に幅広い人脈を持ち、周囲から「フィクサー」と評されていた。東京五輪招致活動にも深く関わった。
五輪には巨額の利権が絡み、カネの問題が度々起きている。東京招致を巡る贈収賄事件では、フランスの司法当局が招致委員会理事長だった日本オリンピック委員会(JOC)の竹田恒和元会長を聴取するなど捜査を進めている。
高橋氏の会社には招致委から多額の現金が振り込まれていたことが分かっている。贈収賄事件と関連があるのかも含め、五輪の暗部を解明しなくてはならない。
五輪組織委は先月末で解散したが、関係者は積極的に情報公開し、捜査に協力する必要がある。
