噴火災害から命を守るための判断が不適切だったと厳しく批判された。判決を教訓に、気象庁をはじめ関係機関は情報発信など防災態勢を一層強化していきたい。

 長野、岐阜両県にまたがる御嶽山で、死者58人、行方不明者5人を出した2014年の噴火災害に際し、気象庁が噴火警戒レベルの引き上げを怠ったなどとして、遺族らが国と長野県に損害賠償を求めた訴訟の判決があった。

 長野地裁松本支部は「気象庁による警戒レベル据え置きは合理性に欠け、違法だ」と認定した上で、レベルを引き上げていても被害を防げたとは認められないとして、請求を棄却した。

 御嶽山の噴火は9月27日に発生し、多くの登山客が巻き込まれる戦後最悪の噴火災害となった。

 争点となったのは、噴火前に警戒レベルを2(火口周辺規制)に引き上げなかった気象庁の判断が適切だったかどうかだ。

 警戒レベルの引き上げには「火山性地震が1日に50回以上」「山体膨張を示すわずかな地殻変動」の有無などが判断基準となる。

 御嶽山では噴火17日前の9月10日に52回、翌11日に85回の火山性地震を観測した。噴火2日前の25日には山体膨張を示す地殻変動の可能性があるとする意見が気象庁内にあった。

 判決が特に問題視したのは、山体膨張に関する気象庁の判断だ。観測データについて15~20分検討しただけで十分な議論を行わず、「漫然と警戒レベルを据え置いた」と批判した。

 少しでも噴火の予兆が見られれば、気象庁は警戒を強め、議論を深めるべきだった。判決を重く受け止めなければならない。

 一方で判決は、警戒レベルの引き上げ判断には一定の時間がかかり、立ち入り規制が間に合わなかった可能性があることなどから、死傷との因果関係は認められないと結論付けた。

 御嶽山の惨事を受け、気象庁は火山担当職員の大幅増員や高精度の地震計の設置、情報発信の強化などさまざまな対策を導入した。

 それでも噴火の予測は難しいとされている。国や自治体などは、噴火発生後の避難も含めた防災態勢を改めて点検し、不足があれば強化を急いでほしい。

 遺族は「悲劇を繰り返してほしくない」と訴えてきた。その思いを置き去りにしてはならない。

 本県では、糸魚川市と妙高市にまたがる焼山が現在、警戒レベル1(活火山であることに留意)となっており、噴煙活動や地震活動は低下した状態が続いている。

 しかしこれまでも噴気活動の活発化を繰り返しているため、推移に注意する必要がある。

 気象庁など関係機関はきめ細かな情報発信に努め、登山客や地元住民の命を守ることに力を尽くしてもらいたい。