世界的な食料危機の打開に向けて、合意が成立したことは大きな進展だ。その内容がきちんと履行されなくてはいけない。実効性が確保されるかを注視したい。
ロシアによる侵攻でウクライナ産穀物の黒海からの輸出が滞っている問題で、両国の代表は22日、トルコ・イスタンブールで輸出再開と航路の共同監視を柱とする合意文書に署名した。
両国と良好な関係を保つトルコのエルドアン大統領、国連のグテレス事務総長を仲介役に、4者が協議を重ねてきた。
ウクライナは世界有数の穀物輸出国で、小麦関連の輸出量は世界シェア約1割を占める。通常なら輸出穀物の9割は南部の港から運ばれるが、黒海封鎖後は2200万トン超が滞留しているとされる。
侵攻後は小麦の価格が世界的に高騰し、途上国を中心に深刻な食料不足が懸念されていた。合意は朗報と言っていい。
国連を中心に国際社会は合意が着実に実行されるよう監視しなくてはいけない。確実な輸出を速やかに実現してもらいたい。
合意によると、穀物は南部オデッサなど3港から運び出す。ロシアの攻撃に備えて設置した機雷は撤去せず、ウクライナ側が船の出入りを誘導する。
また3カ国と国連はイスタンブールに「合同調整センター」を設置、航行の安全を監視する。ウクライナに向かう船が武器を運んでいないかどうかを確認する。
両国は商船、民間船、関連する港湾施設にいかなる攻撃も行わないことも合意した。
だがロシアは合意後もオデッサの港をミサイル攻撃し、ウクライナの高官は「昨日合意したのに、今日は攻撃している」と非難した。先行きは見通せない。
ロシアの合意には封鎖への国際的な批判を避ける狙いがあったに違いない。ウクライナ産穀物の依存度が高い中東、アフリカに友好国が多いことも影響しただろう。
ただ、ロシアは自国産穀物や肥料を世界に供給するため、欧米側制裁の緩和も要求している。実利を狙う戦略も透けて見える。
侵攻は24日で5カ月になった。戦闘はなお続いている。ロシアは東部ドンバス地域2州に加え、南部2州などの確保も目指すと明言する。輸送船が戦火に巻き込まれる恐れなど不安材料は残る。
食料危機は物価高騰を招き、貧困層の拡大の要因となり、政情不安の一因にもなっている。
国際的な小麦価格の急騰は、その9割を輸入に依存している日本など先進国にも影響している。
ウクライナでは戦禍で農業従事者が不足し、収穫や耕作が見込めない農地が3分の1になるとの指摘がある。今後数年は生産が制限されるともみられている。
食料危機の打開に有効なのは、ロシアのウクライナ撤退と停戦であることは確かだ。
事態の解決に向けて両国が合意できるよう、各国は説得を続けていかなくてはいけない。
