経営が厳しい鉄道ローカル線を一律の数値基準で切り捨てるようなことがあってはならない。
国とJRなどの鉄道事業者は沿線自治体の意向を十分考慮し、まずは存続に向けた議論を進めてもらいたい。
国土交通省の有識者検討会は、鉄道ローカル線の将来に関する提言書をまとめた。
1キロ当たりの1日平均乗客数を示す「輸送密度」が千人未満の線区などを対象の目安に、国が主導して「特定線区再構築協議会」(仮称)を設置すべきだとした。
協議会には、事業者と沿線自治体、県が参加し、鉄道存続策やバス転換など幅広い選択肢を議論する。国も主体的に関与する。
提言の背景には、慢性的な利用者の減少でローカル線の赤字が続き、さらにウイルス禍の影響で鉄道会社の運賃収入が落ち込んでいる状況がある。
本県関係で、路線全体の輸送密度が千人未満だったのは、JR西日本の大糸線(糸魚川-長野県・南小谷)と、JR東日本の米坂線(坂町-山形県・米沢)、只見線(小出-福島県・会津若松)、飯山線(越後川口-長野県・豊野)の4路線だ。
他にも一部線区で千人未満の路線があるが、対象から除外する細かな要件がある。協議会の対象がどの路線になるかは、先の4路線を含めて明確ではない。
一方、自治体が出資する第三セクターのえちごトキめき鉄道、北越急行は対象外だ。
大糸線の場合、2019年度の輸送密度は102人だった。国鉄民営化後のピークだった1992年度から9割以上減らした。
提言に先立ち、沿線の糸魚川市などはJR西の要請で、路線の活性化や鉄道としての持続可能性を協議する場を設けた。
しかし、地元は廃線論議につながることを警戒し、5月の初会合以降は開かれていない。
提言について、糸魚川市の米田徹市長は「数値のみで処理をしようとすることは到底理解できない」とコメントした。鉄路の存続を求める立場として当然だろう。
協議入り後は「存続ありき」「廃止ありき」の議論はしないとしている。だが、バス転換で事実上の廃線を迫られるのではないかと地元自治体が警戒心を抱くことは理解できる。
ただ、地域によっては小回りが利くバスの方が便利という声があることも事実だ。地域の交通網の中で鉄道をどう位置づけるのかじっくり議論してほしい。
国は新駅設置、新型車両導入などに財政支援する。バス転換なら車両購入や専用道整備を後押しし、運行費も補助する考えだ。
提言では協議開始後、最長3年以内に対策を決定すべきだと期限を示した。JRと地元の合意が得られず、時間だけが経過する事態を避けるためだ。
鉄道は住民にとって大事な交通手段というだけでなく、地域の観光や産業にとっても重要なインフラであることは言うまでもない。期限にとらわれず、地元が納得できる方向性を探るべきだろう。
