動物由来のウイルス感染症「サル痘」の患者が、国内で初確認された。爆発的に広がるリスクは低いとされているものの、医療体制をしっかり整えたい。

 私たちも推移を注視し、冷静に対応していくことが肝心だ。

 厚生労働省によると、患者は欧州滞在歴のある東京都の30代男性で、渡航先で後にサル痘と診断された人と接触があった。発熱や発疹、頭痛などの症状が出た。

 サル痘はアフリカで地域的に流行してきたが、今年5月以降は欧米を中心に感染が拡大している。

 このため、世界保健機関(WHO)は23日、「国際的に懸念される公衆衛生上の緊急事態」を宣言した。WHOによると、75カ国・地域で1万6千人超の患者が確認されている。

 テドロス事務局長は「感染について分からないことが多く、世界中に急速に拡大している」と宣言発出の理由を述べた。

 外務省は全世界を対象に、4段階の危険情報のうち一番低いが、渡航に十分な注意を促す感染症危険情報レベル1を出した。

 日本への流入は新型コロナウイルスの水際対策を緩和したこともあり時間の問題とみられていた。

 サル痘の潜伏期間は通常7~14日で、発熱や頭痛に続いて顔面や手足に多くの発疹が出る。

 ウイルスを持つ動物との接触や患者と近距離で長時間話したり、患部や体液に触ったりすることで感染する。患者が使用し汚れた寝具や衣服を介しての感染もあるとされている。

 アフリカに生息するリスなどの齧歯(げっし)類がウイルスの自然宿主とされ、サルから発見されたため、その名が付いた。

 感染者の大半は軽症で回復するという。専門家は空気感染はしないことなどから、新型ウイルスのような急激な感染拡大リスクは高くないとしている。

 しかし、油断は禁物だ。政府は的確な情報発信をしていくとともに、検査や監視体制をしっかりと構築しなければならない。

 厚労省は各都道府県で検査ができるよう試薬などを送付した。

 本県では各医療機関で診察した場合、検体を県保健環境科学研究所(新潟市西区)で検査できる体制を整えている。県では「しっかりと対応すればコントロールできる」とし、県民に冷静な対応を呼び掛けている。

 現在は新型ウイルスの流行「第7波」の真っただ中で感染が急拡大し、医療供給体制が逼迫(ひっぱく)しつつある。これ以上、医療現場の混乱を招いてはならない。

 発症予防には天然痘ワクチンが有効とされている。米疾病対策センター(CDC)によると、85%の予防効果がある。

 国内でも天然痘ワクチンは備蓄されている。厚労省の専門部会は29日、サル痘予防に使うことへの可否を審議する。速やかに方向性を示してもらいたい。

 マスク着用や手洗いも予防になる。新型ウイルス対策でも行っていることだ。続けていきたい。

 患者には、男性間の性的接触による感染が多いが、女性患者もいる。病気と性的指向を結び付ける偏見を持たないことが大切だ。