幅広い国民の理解を得ようとする姿勢もなく強行することには疑念が募る。国会でしっかり説明し、議論を尽くすべきだ。
政府は、参院選の街頭演説中に銃撃され死去した安倍晋三元首相の国葬を、9月27日に実施すると閣議決定した。
安倍氏の国葬を巡っては国民から賛否の声が巻き起こっている。
岸田文雄首相は閣議決定した22日当日の講演で「さまざまな意見があることは承知している。丁寧に説明し、できるだけ多くの国民に納得してもらって行いたい」と話したが、説明しようという姿勢は今なお見えない。
政府が来月3日に臨時国会を召集し、会期を3日間とする方針を示したのに対し、野党は国葬などについて質疑するため十分な会期確保を求めている。さまざまな疑問に答えてもらいたい。
国葬は法令に基づく明確な開催基準がない。政府は国の儀式を所掌するとした内閣府設置法により閣議決定で実施可能だとする。
だが、全額公費で賄う国葬を審議を経ずに政府が決めたのは国会の軽視ではないか。
憲法が保障する思想・良心の自由を侵害し、弔意の強制につながるとの懸念も拭えない。
政府は国葬について「国民一般に喪に服すことを求めるものではない」との考えを示しているが、同調圧力が気に掛かる。
北海道帯広市教育委員会は、安倍氏の葬儀が行われた12日に弔意を示すため、全小中学校に国旗の半旗掲揚を要請していた。
安倍政権は、集団的自衛権の行使を容認する安全保障関連法の制定など国論を二分する政策を推し進めた。日本社会の分断や格差を広げたとの指摘があり、政治的な評価は分かれている。
立憲民主党など野党は、説明を尽くさない政府の姿勢を問題視し、国葬の撤回を要求している。
あぜんとしたのは自民党の茂木敏充幹事長の反応だ。「国民から、いかがなものかとの指摘があるとは認識していない。(野党の主張は)国民の声とはかなりずれている」と述べた。
この発言については「国葬はやるべきだ」とする日本維新の会の松井一郎代表も「大間違いだ。ピントがずれている」と批判した。
安倍氏への国会の追悼演説を巡っては、自民は一時、8月の臨時国会で盟友の甘利明前幹事長を立てる案で検討していたが、先送りする方向で調整に入った。
自民の首相経験者に対しては、政治的立場を超えて野党党首級が演説してきた経緯もあり、与野党で異論が出たためだ。再考は当たり前といえる。
政府・与党は幅広い意見を取り入れた協調への道を進むべきだ。内向きの姿勢で国葬や追悼演説を実施すれば、国民の疑問はさらに深まりかねない。