悲願の登録が先送りされることになった。政府の対応や説明もふに落ちず、関係者から困惑と不信の声が出ているのは当然だ。

 政府が世界文化遺産として国連教育科学文化機関(ユネスコ)に推薦した「佐渡島(さど)の金山」について、文部科学省はユネスコから推薦書の不備を指摘されたため、来年2月までに再提出することを明らかにした。

 政府や県、佐渡市が目指していた2023年の登録は断念し、早くても24年の登録となる。

 これまで早期実現を目指して地道に活動してきた島民ら関係者は深く落胆しているに違いない。

 なぜこうした結果を招いたのか。政府の説明には幾つもの疑問が湧いてくる。

 文化庁によると、不備が指摘されたのは構成資産の一つである西三川砂金山に関する記述だ。

 西三川砂金山では、砂金を含んだ山を崩し、土を大量の水で洗い流すための水路が途切れつつも残されており、推薦書ではかつてはつながっていたと説明していた。

 これについてユネスコは途切れている箇所の「説明が欠落」と主張しているという。文科省事務次官がパリのユネスコ幹部に理解を求めたが、折り合わなかった。

 首をかしげるのは、この不備が推薦書の再提出を求められるほど致命的なのかということだ。

 経緯を知る政府関係者や識者は、これまで推薦された類似例なら認められていたとみる。

 背景として、登録を巡る日韓対立にユネスコが懸念を抱いていることが指摘されている。

 韓国は佐渡金山について「戦時中に朝鮮半島出身者が強制労働させられた現場」と主張している。

 文化庁は今回の事態とは関係ないと説明しているが、「普段よりも推薦書を厳しく見て、審査に持ち込ませたくなかったというのがユネスコの本音だろう」と政府関係者は指摘する。

 真相を詳しく分析し、今後の取り組みに生かさねばならない。

 政府の対応を巡っても見過ごせない点がある。

 ユネスコは2月に政府から受け取った推薦書を期日の3月1日までに諮問機関に送付せず、登録審査の手続きに入っていなかった。

 政府は不備の指摘を2月末時点で受けていたという。それを報道で明るみになるまでの5カ月間、県や佐渡市などに説明しなかったのは理解できない。

 地元は不信感を抱いている。経緯をしっかり説明してほしい。

 今回の件を受け、自民党は本県や佐渡市と連携し登録を実現するよう求める決議文を文科省に提出した。政府は決議を踏まえ態勢を再構築すべきだ。

 推薦書は、県と佐渡市が何度も原案を書き直してきた成果だ。島民ら関係者の願いを重く受け止め課題を乗り越えたい。