「核兵器のない世界」の実現に向け、唯一の戦争被爆国である日本は国際社会で議論の主導的な役割をどう果たすか。道のりは険しく、覚悟が問われる。
核拡散防止条約(NPT)再検討会議が1日、米ニューヨークで開幕し、日本の首相として初めて被爆地広島出身の岸田文雄首相が出席、演説した。
首相は「長崎を最後の被爆地に」と世界に呼びかけ、「核兵器のない世界」を実現するための行動計画として「ヒロシマ・アクション・プラン」を提唱した。
プランは(1)核不使用の継続(2)核戦力の透明性向上(3)核兵器数減少傾向の継続(4)不拡散と平和的利用の促進(5)被爆の実相の認識を世界で共有-で構成する。
多くはNPTの3本柱に沿った内容だ。核軍縮の重要な論点に触れてはいるが、従来の取り組みを超える目立った提案はない。
今回の会合は、ウクライナ侵攻と核の威嚇を繰り返すロシアと米欧が対立、中国が核戦力を増強し、各国が核技術の高度化にしのぎを削る中での開催だ。
核軍縮を急がねばならない。ストックホルム国際平和研究所は6月に「核兵器が使用されるリスクは冷戦時代以降、最も高まっている」と指摘している。
核保有国間の不信感を見据え、首相は核兵器の削減に向け「米ロ間の対話を支持し、米中間での対話を後押し」すると明言した。
「核なき世界」を夢物語で終わらせず、首相は対立する保有国同士を協議の場につける努力を重ねてもらいたい。
一方、核を保有する米ロ英仏中の五大国に対し、非保有国の不信感が募っている。保有国の核軍縮義務が守られていないからだ。
首相が外相時代に出席した前回2015年の会合は双方が対立、NPT体制強化につながる最終文書を採択できず、決裂した。
これ以上、核軍縮に向けた議論を停滞させることは許されない。国連加盟国に迫る191カ国・地域が加盟、発効から52年たつNPTの存在意義に関わる問題だ。
今回の演説には残念な点があった。核を非人道兵器として史上初めて違法化した核兵器禁止条約についての言及がなかったことだ。
6月の第1回締約国会議には約80カ国が参加したが、保有国は参加せず、米国の「核の傘」の下にいる日本も見送った。「保有国と非保有国の橋渡し役」を目指す日本が、国際社会の信頼と支持を得られるかは不透明だ。
演説を聞いたカナダ在住の被爆者で、首相の遠戚に当たるサーロー節子さん(90)は「核廃絶を唱えながら、米国の核抑止力に頼っているという矛盾について説明されていない」と厳しく批判した。
NPTの会議は26日まで続く。世界が核軍縮に一歩を踏み出すことを期待したい。
