物価高による暮らしへの影響を反映し、過去最大の引き上げとしたことは評価できる。誰もが安定した生活を送れるように、賃金の底上げを着実に進めたい。

 一方で、経営の厳しさが増している中小企業にとっては大きな負担となりかねない。政府は効果的な支援策を急ぐべきだ。

 2022年度最低賃金(最賃)の引き上げ額を巡り、中央最低賃金審議会は、全国平均で時給961円とする目安をまとめた。

 現在の平均額から31円の引き上げで、02年度に現在の方式となってから最大の増加幅だ。引き上げ率は3・3%となった。

 中央審議会が示した目安を基に、各都道府県の地方審議会は今後それぞれの最賃をまとめる。

 地域ごとの引き上げ額の目安は、経済情勢に応じて示され、本県は福岡県などと同じCランクの30円の引き上げとされた。

 本県の最賃は現在859円で、全国平均の930円より71円低い。5日に開かれる予定の本県の審議会では慎重に議論し、最適な額を導いてもらいたい。

 最賃は、全ての労働者に適用される賃金の下限額だ。働く人全体の4割近くを占める非正規労働者の多くは、最賃ぎりぎりの時間給で暮らしている。

 さらに今年はロシアのウクライナ侵攻や円安などに伴う物価高が追い打ちをかけている。物価高はさらに進む恐れがあり、賃金全体の引き上げは不可欠だ。

 審議会の協議は、引き上げ幅の根拠や理由を巡って労使の隔たりが埋まらず、8月に持ち越す異例の展開となった。

 近年の引き上げは感染禍が始まった20年度を除き、政治主導で年3%程度の上昇が続いた。21年度は菅前政権の強い意向で過去最大の28円で決着した。

 岸田政権は骨太方針で「できる限り早期に全国加重平均千円以上を目指す」と掲げたが、22年度の数値目標は示さなかった。

 そうした中で、引き上げ率の根拠となる生活費など客観的なデータを基に労使は今までにないほど詳細に議論したという。この姿勢は今後も続けてほしい。

 気掛かりなのは中小企業への影響だ。物価高で仕入れコストが上昇し、価格に転嫁できず収益が悪化している企業は少なくない。

 経営実態から離れた大幅な賃上げでさらに負担が増し、設備投資や雇用などを控えれば、地域経済の成長を阻害しかねない。

 中小企業への支援拡充策として、大企業との取引価格の適正化を徹底し、生産性を向上するための人材投資やデジタル化の推進などが求められている。

 政府はこうした声に耳を傾け、しっかり後押しするべきだ。

 景気回復を伴わない「悪い物価上昇」を食い止める有効な対策も急がなければならない。