新型コロナウイルスの感染が全国で急拡大し、ウクライナ危機や物価高への対応も求められている。現状を「戦後最大級の難局だ」とする岸田文雄首相の認識に間違いはないだろう。
それなのに7月の参院選を受けて開かれた臨時国会が何の議論も行われぬまま、わずか3日で閉幕したことは納得し難い。
与野党は安倍晋三元首相の国葬に関して閉会中審査を行うことで合意した。国会は国民が疑問や不安に思う問題を放置せず、閉会中も十分に審議してもらいたい。
臨時国会は、野党が開会前に安倍氏の国葬を閣議決定した政府の判断などについて議論を求めたが、参院選直後の慣例で、議事は正副議長人事などの手続きのみにとどまった。
安倍氏が銃撃されて死去してから8日で1カ月になる。
この間に、国葬や要人警護の問題に加え、かつて霊感商法で社会問題を起こした世界平和統一家庭連合(旧統一教会)と政界の関係が大きな焦点に浮上した。
安倍氏実弟の岸信夫防衛相や二之湯智国家公安委員長、末松信介文部科学相ら閣僚をはじめ、自民党議員と教会のつながりが次々と表面化している。複数の本県関係国会議員にも接点があった。
しかし自民は議員個人の問題とし、党として調査する意向はない。要職の福田達夫総務会長に至っては「何が問題か、よく分からない」と発言し物議を醸した。
共同通信社の世論調査では、旧統一教会と政界の関わりについて、「実態解明の必要がある」と答えた人が8割に上る。
野党の立憲民主党や日本維新の会などは党内調査の結果を公表した。自民にも党内調査を求める声が上がるのは当然だ。無責任な姿勢ではいけない。
安倍氏の国葬についても国民の賛否は分かれている。首相は判断の根拠を明確に示すべきだ。
新型ウイルスへの対応も喫緊の課題だ。全国では連日20万人超の新規感染者が確認され、かつてない規模で広がっている。
首相は経済活動との両立を重視し、まん延防止等重点措置を適用せずに乗り切る意向だ。
医療機関や保健所の業務逼迫(ひっぱく)を回避する対策についても、政府は感染者の全数把握の見直しなどを、現在の流行「第7波」が落ち着いた段階で検討する方針だ。
これには専門家の有志が、早急な着手が必要だとした提言を発表する異例の事態になっている。
秋の臨時国会まで対応を先送りするのでは、批判は避けられまい。早急な議論を求めたい。
外交面でも新たな懸案が生じている。ペロシ米下院議長の台湾訪問をきっかけに中国が軍事圧力を強めている。
中国人民解放軍が台湾周辺で行った重要軍事演習行動では、弾道ミサイルが初めて日本の排他的経済水域(EEZ)内に落下した。
ウクライナ危機に加え、緊迫化する東アジアの安全保障環境も見据えねばならない。
閉会中であればなお、与野党は強い緊張感を持って国会運営に当たるべきだ。
