軍事力による威嚇は日本を含む地域の安定を揺るがすものであり、見過ごすわけにはいかない。
米中両国の間で高まる緊張を和らげ、偶発的衝突を引き起こすことのないよう、日米は中国との対話継続に力を尽くしてほしい。
中国人民解放軍が台湾周辺で展開した大規模な「重要軍事演習行動」が4日間の日程を終えた。
この間、中国軍は多数の艦船や軍用機、ミサイル、ドローンを投入し、台湾を包囲、攻撃する想定で実弾演習を実施した。
台湾周辺の6カ所ものエリアを設定し、同時に演習を行うのは初めてだ。中国の航空機や艦船は台湾海峡の暗黙の「休戦ライン」である中間線越えを繰り返した。
ミサイルの一部は日本の排他的経済水域(EEZ)内に落下した。台湾だけでなく、日本や米国も威嚇する意図は明らかで、極めて憂慮される事態だ。
台湾方面を管轄する東部戦区は実践的な演習を継続するとしており、今後も中国が軍事活動を活発化させる可能性は高い。空と海とで警戒を強める米軍との偶発的衝突も懸念される。
台湾統一への圧力を強める中国の習近平指導部は、ペロシ米下院議長の台湾訪問を「内政干渉」だとして激しく反発していた。軍事演習はその対抗措置であると同時に、強大化した軍事力を誇示する狙いもあるとみられる。
習指導部は軍事や気候変動などの分野で米国との協議を停止することも表明した。過剰反応と言わざるを得ない。
一方、バイデン大統領らに次ぐ米国ナンバー3のペロシ氏の訪台には評価が分かれる。
ペロシ氏は「米国は台湾と団結する」と中国をけん制したが、逆に中国に軍事演習の口実を与え、緊張を高めたとの指摘がある。
米政権は事態の沈静化に向け、中国との対話のチャンネルをしっかり維持してもらいたい。
影響は日本にも及んでいる。カンボジアで調整していた日中外相会談は直前になって中国側が中止を伝え、取りやめになった。
日本を含む先進7カ国(G7)外相が台湾情勢に関する共同声明で「中国を不当に非難」したという理由だが、到底受け入れられない対応だ。
岸田文雄首相は、EEZ内のミサイル落下などを受け、軍事演習を非難し、即時中止を求めた。地域の安全保障を脅かす行為に毅然(きぜん)とした姿勢を示すのは当然だ。
日中は来月29日に国交正常化50年を迎える。両国は歴史的、文化的、経済的な関わりが深い。
岸田首相と習氏との会談は、昨年10月に電話で行ったのが最後だ。関係改善へ、節目を捉えて話し合う機会を設ける必要がある。
米国や周辺諸国と連携しながら、地域の安定に資する日本独自の外交手腕を発揮するべきだ。
