日本の安全保障環境が厳しさを増しているのは確かだが、危機感の高まりに乗じて防衛費を際限なく膨張させては、近隣諸国との緊張をさらに高めることになりかねない。冷静な議論が不可欠だ。

 12日に本格始動した第2次岸田改造内閣で、岸田文雄首相は五つの重点分野に取り組むとし、筆頭に防衛力強化を挙げた。

 改造後の記者会見で、5年以内に防衛力を抜本強化するとし、年末の外交・安全保障政策の長期指針「国家安全保障戦略」など安保関連3文書の改定を踏まえ、「あらゆる選択肢を排除せず現実的に検討する」と強調した。

 防衛力強化を強く打ち出し、国内総生産(GDP)比で「2%」の防衛費確保を「当然だ」と主張していた安倍晋三元首相の意見を「念頭に置く」とも述べた。

 背景にはロシアのウクライナ侵攻や、台湾を中心に軍事的な優勢の度を強める中国の存在がある。

 先ごろ政府がまとめた2022年版防衛白書は、ロシアと中国の軍事警戒レベルを引き上げ、核・ミサイル開発を進める北朝鮮にも対処する必要があるとした。

 政府は23年度予算編成で防衛費を別枠扱いする考えを示しており、GDP比1%程度で推移してきたこれまでの規模を超える可能性が強まっている。

 防衛費の概算要求としては過去最大の5・5兆円台で調整している。新型装備など金額を明示しない「事項要求」を多数盛り込み、最終的に6兆円規模に膨らむともみられている。

 政府が敵基地攻撃能力を言い換えて保有を検討する「反撃能力」や、地上配備型迎撃システム「イージス・アショア」計画の代替策などの関連経費も要求される。

 ただ軍備を大幅に増強すれば、近隣諸国が警戒を強めるのは当然で、対立が深まる恐れがある。

 気になるのは、23年度予算要求を決定する防衛省内の調整で、制服組自衛官を中心とする統合幕僚監部(統幕)が査定側に加わっていたことだ。

 これまで省内の査定は背広組の防衛官僚(文官)が中心の内部部局で陸海空自衛隊の要望を精査し財務省への要求を決めていた。制服組は査定を受ける側だった。

 今回の方法では背広組のチェック機能が低下し、制服組の軍事的意見に偏重する恐れがある。政治が軍事に優越する「文民統制(シビリアンコントロール)」の原則が脅かされてはならない。

 共同通信社の6月下旬の世論調査では、防衛費について「今のままでよい」との回答が36%で最も多く、GDPの「2%までの範囲で増額」が34%、「2%以上に増額」は13%だった。

 必ずしも国民が防衛費の大幅増を望んでいるとは言えない。「規模ありき」の議論ではなく、内容を十分吟味してもらいたい。